本研究の目的は、子ども・子育て支援新制度によって保育サービスの自由化・多様化が促されたことによって、子どもや保護者の生活、あるいは現場の保育にどのような影響が出ているかを調査することである。研究計画はA)全国各地の保育施設に対する大規模アンケート調査、B)新制度の影響を強く受けたと思われ る保育施設の保育者、保護者への聞き取り調査、C)子どもの姿の変化を知るための実地観察という3本の柱から成っている。 令和元年度は、Aのアンケート調査について、全国の276の保育施設から集めた回答の分析を進めた。前年度までに行なっていた記述統計的な分析から、幼稚園の運営が厳しくなって いることや、認定こども園では事務作業量が大きな負担になっていることなど、いくつかの傾向が明らかになっていたが、令和元年度は、施設の種別や規模、地域差等のさまざまな観点から数値に有意差が見られるかどうかを検討するとともに、テキストマイニングの手法を用いて自由記述欄の回答の客観的分析を試みた。これについては、現在も分析を進めているところである。 一方、B、Cの調査については、種別を異にするいくつかの保育施設において、保育の実地観察、および保育者へのインタビュー等を積極的に行なった。前年度までは、事業者の交替によって保育内容の大きな変化が生じ、児童に影響が出たり、競争が激化して保育士の確保が困難になったりと、いわば新制度の「負の側面」が明るみに出る傾向があったが、今年度は、新制度のキャリアアップ加算等の措置により運営が安定した等、いくつかの「正の側面」があることも見出された。特に、保育運営に関する事務部門と保育実施部門が独立しつつ、互いを尊重している保育施設において、このような「正の側面」が見出される傾向にあり、そのメカニズムについて現在分析を進めている。
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