研究実績の概要 |
東日本大震災により宮城県は甚大な被害を受け,子どもに関して,不登校の増加,学業面,興奮や混乱等の情動面,落ち着きのなさ等の行動面の問題が報告されている(宮城県教育委員会, 2013)。これらは,セルフ・レギュレーション能力や実行機能の問題と捉えることができる。そこで,このような宮城県の子どもの問題の解決と予防を目指して,申請者が開発した実行機能育成のためのSocial Thinking & Academic Readiness Training(START)プログラムを就学前児及び小学校低学年児に実施し,実行機能等への効果を検証する。さらに小学校入学後の学習成績及び学習行動との関連性も明らかにすることを目的とする。 平成28年度は,幼稚園児にSTARTプログラムを実施し,その効果を調べた。STARTプログラムの実施群としてA幼稚園,年長児64名 (男児31名, 女児33名, 平均月齢71.4か月, SD=3.64),統制群としてB幼稚園,年長児47名 (男児26名, 女児21名, 平均月齢71.5か月, SD=3.51) を対象とした。事前に幼稚園の子どもの保護者に紙面で説明を行い,同意を得た園児に対して個別に実行機能,行動性セルフ・レギュレーション能力及び絵本の読み聞かせ場面における行動の測定をSTARTプログラムの実施前後,統制群は同時期に実施した。これらの幼稚園は,宮城県にあり,2011年の東日本大震災で,地震や津波の被害があったが (宮城県, 2011),震災後はより深刻な被災地からの転入者が多い町 (総務庁, 2015) に立地している。 その結果,抑制課題において,実施群は統制群より有意に抑制コントロール能力が向上した。教室での行動は,教師による絵本の読み聞かせ場面において,実施群は統制群に比べて,有意に集中している時間が増えた. 教師による子どもの評価においては,実施群は統制群に比べて不安/抑うつ問題行動が改善した。
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