研究課題/領域番号 |
16K01867
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
黒川 嘉子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (40346094)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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キーワード | 乳幼児のことば / 移行対象 / 象徴化 / 乳幼児心理臨床 / プレイセラピー / 発達障害 |
研究実績の概要 |
乳幼児期の心理臨床において、言語発達の遅れや場面緘黙、吃音、自閉症スペクトラム障害など「言葉」をめぐる問題は大きなテーマである。本研究では、言葉がまだ出ていない状態(infant)から、言葉を話し、物語る(narrative)ようになる過渡期にあらわれる、完全な象徴機能をもつ前の“移行対象としての言葉”をとらえ、分離のプロセスと言葉、身体感覚をともなう言葉、遊ぶことと話すこと、の3つの研究項目についてとらえ、他者と共有できる言葉と魔術的な主観的言葉との質的吟味をおこなうことを目的としている。 追加採択による年度後半からの研究開始だったため、研究計画を調整し、本年度は、乳幼児の言葉における音の響きと身体性について、F.DoltoやD.N.Sternらの理論から検討した。既存の言葉を使いながらも、言葉の意味や用法などの秩序にとらわれない子どもの創り出す独特の言葉を取り上げ、カテゴリー性の情動ではなく、体験の全体性を有する生気情動を表す動的な特徴を有していることを明らかにした。たとえば、オノマトペに代表されるような音の響きから直接的な感覚的イメージを想起させる特徴を、子どもが創り出す言葉から見出し、音による聴覚的感覚から触覚や味覚といった別の知覚様式へと変換する無様式知覚がベースになっていることや、養育者も子どもとの間でオノマトペを多用しており、音の響きによる生気情動レベルでの関わり、つまりは情動調律を可能にしていることが示唆された。 言葉の意味内容の理解による体験の共有という側面ではなく、音感性から言葉をとらえることによる身体感覚をともなう体験の共有を検討することは、乳幼児とのかかわりにおいて新たな視点になり得ると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
追加採択により年度後半から研究に着手したため。調査協力を得る予定の幼稚園等の施設との調整において、年度末での調査実施は、施設側に負担をかけること、対象の子どもの月齢が、当初の予定と差異が生じるため、次年度に実施することに研究計画を見直したことによる遅れである。
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今後の研究の推進方策 |
「移行対象としての言葉」という観点からの実証的研究はこれまでほとんど行われておらず、調査研究による移行対象としての言葉の実態把握、従来の移行対象・移行現象の実態把握をおこなう。具体的には、1歳後半から2歳代を中心に、自分に対する呼称やその子どもがよく言う言葉やフレーズ、独特の言い回しなどと、特定の愛着物の有無やそれに対する呼称、就眠時行動と離乳のプロセスなどに関する質問紙調査を実施し、基礎的データーを収集する。 また、乳幼児期の言葉および子どもと養育者(主に母親)の相互作用の特徴と変容過程をとらえるために、母子相互作用の観察研究等の縦断的研究をすすめていく計画である。 それらの結果をもとに、分離のプロセスとの関連、移行対象としての愛着物と言葉との違い、移行対象と自閉対象との違いなどを検討し、乳幼児の象徴形成について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度後半からの研究開始だったため、調査協力を得る施設等の状況を考慮し、初年度に予定していた調査を29年度に計画変更したことによるところが主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究のデータ管理のため、設備備品としてパソコンなどの電子機器を購入する。また、研究打ち合わせや学会発表(旅費)の支出を予定している。調査対象者への謝金やデータ整理にかかわる謝金も29年度からの支出となる。
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