研究実績の概要 |
本研究では、言葉を話し、自身を物語り、他者とコミュニケーションをとるようになる過渡期にあらわれる乳幼児期特有のことばをとらえ、(1)分離のプロセスと言葉、(2)身体感覚をともなう言葉、(3)遊ぶことと話すこと、の3つの研究項目について検討している。 令和3年度は、これまでの研究データの総合的検討から特に言葉のもつ音の機能について検討した。乳幼児期の相互作用におけるコミュニオン調律(Stern,1985)や音の回路によって共振するsympathy(内海,2015)の重要性が明らかになり、意味の伝達や理解ではなく、内的体験の共有やただ共にあること(being)にかかわる言葉の機能が、乳幼児心理臨床や発達障害の心理臨床に有効であることが示された。 こうした観点は、乳幼児期特有のものとしての理解に留まらず、臨床実践において、verbalではないvocalなコミュニケーションの重要性(Sullivan,1954)に通底するところであり、発達障害の用語や診断名称を用いる際に生じる揺れ幅というテーマで考察した(黒川,2022)。 また、移行対象としての言葉は、「わたしのもの」という側面から、その子どもにだけ魔術的な力を発揮するが、養育者へのインタビューやプレイセラピーの事例研究を通し、体験を共有する関係性では、物の移行対象と同じように、家族等の中で大切な“ことば”となり、すでに用いなくなった後でも、「わたしたちのもの」として懐かしさなどの情緒的体験を伴い扱われていることが示された。
|