研究課題/領域番号 |
16K01878
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
岩倉 政城 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 名誉教授 (90005067)
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研究分担者 |
齊藤 敬 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 准教授 (00343616)
小松 秀茂 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (30162051)
山崎 裕 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 准教授 (40322656)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射能汚染 / 保育園・幼稚園・こども園 / 保育活動の制限 / 保育活動の回復 / 放射線測定 / 測定値の保護者との共有 / 放射能話題のタブー化 |
研究実績の概要 |
福島県内の協力を得られた13の園で放射能汚染による保育活動の制限とその回復について現地調査と心身状態の質問紙調査、及びう歯と肥満度の調査を行った。調査園の放射線量は、事故直近最大8μSv/hであったが2016年8月には園庭で環境庁除染基準以下に達した。しかし処分した汚染土は園敷地内に埋まったままで、敷地を一歩出ると最大8μSv/hを超す汚染が残った園もあった。そのため園外活動に依然として制限が残るものの、除染済み園庭内では制限が取り払われた。当初、目に見えない放射能汚染によって保育活動全般が萎縮していた。しかし除染を繰り返しその測定結果を保護者と共有することで合意を得ながら保育活動が拡大していった。それまでにあった目に見えない放射線に対する保育者の恐れや萎縮は除染して測れば着実に減少することを確信すると、保育活動の拡大や自然交流の場として園庭の改造などを試みるまでになってきている。 心身調査の自由記述では、園児が「一人で居るのが不安→大人から離れてのびのび遊べる」や「自分から外に出ない→外に出ることに抵抗がなくなった」が挙げられる。保護者では「測ることで食材への不安が解消」され、保育者に「外に出さないで」という要請がなくなった。保育者では、「放射線が怖い→放射線を理解できて不必要な恐怖感がなくなった」等が挙げられる。 う歯には一定の傾向を認めなかった。肥満度をあらわすカウプ指数の震災前後の変動は増加する傾向が散見されたが園間の相違が目立っている。 事故後5年を経て保育活動の進展が見られた一方で、保護者間や保育職員間に震災経験の有無で放射線への認識にギャップが生じていた。また地域や立場によって放射線を話題にすることを避ける傾向が見られ、タブー視化が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
放射線専門家と保育専門家集団6~8人を率いて現地調査を3~4日かけて毎年精力的に行ってきた。それだけでは不足する客観データを得るため、保育に関する質問紙調査、震災以前に及ぶう歯罹患率調査、肥満度調査データの収集を行い、月一回のペースで定期研究会による討議とデータ解析を行った。その成果を、国内外で学会発表として行って来た。また仙台防災フォーラム等で一般市民にも研究成果の発表と広報を行うなど当初の計画以上の活発な活動になった。 なぜなら本研究が日本の一地方の放射能汚染であっても、ここで得られた稀有で深刻な経験とその克服過程を記録することは、必ず全人類の貴重な財産になると確信するからである。そのため、よりグローバルな発信の必要性を感じ、海外での発表に当たっては英語に堪能な日米国籍を持つ研究協力者を得て大胆に発表活動を進めてきた。しかしここに来て活動に見合う財政的な裏打ちが不足し、規模の縮小を迫られている現状である。
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今後の研究の推進方策 |
活発な調査研究、学会報告を行って来たが、2017年度の現地調査は財政的な困難もあって例年の規模で行うことが不可能である。縮小してでも経年的な変化を記録することが重要で、今回は調査対象園を限定して訪問することを検討せざるを得ない。 また、本研究の成果がグローバルに活用されることを願って海外発表を2017年度にも予定しており、二演題を共同研究者総出で発表の予定である。 さらに2017年度から最終になる2018年度にまたがってこれまでの成果を報告書にする作業を行う予定である。しかし研究者それぞれが自身の業務を持ち、原稿作成や編集に関わる時間的な余裕が得難いこと、研究成果が本来グローバルに活用されるためには英文による冊子化が必須であることから、この実現には多くの難関が待ち受けている。これまで以上の精力を注いでこれらの課題に取り組みたい。
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