(1) いじめに関する学際的な文献サーベイ:いじめといじめ防止プログラムに関する学際的な文献サーベイを行い、研究の到達点をまとめた。その結果、最も広く認知されるオルヴェウス・プログラム(O B P P)でも、ノルウェーでの効果は高いが、アメリカでは低いなど地域差があることや、後続のKivaプログラムやStep to respectプログラムなどもO B P Pほどの効果は得られていない事、かえって負の効果をもたらすプログラムも散見されることも明らかになった。 (2) 子供の問題行動と家庭環境: 21世紀出生児縦断調査をもとに、幼少時および学童期の両親の働き方や世帯所得が子どもの発達に及ぼす影響を検証した。その結果、母親の早期復職や学童期の就業は子供の問題行動の発生確率に全く影響を及ぼさないが、父親の不安定就業や、両親の過干渉は有意に発生確率を高めることが確認された。また父親の学歴の高さや、子供と家庭で過ごす時間は発生確率を有意に下げており、父親育児の重要性を追認する結果となった。 (3) 心理学を援用した分析によるいじめ防止策の提案:学校環境(教員や同級生との関係、学業、過ごし方など)のみならず、家庭環境(家族構成、世帯年収、親の就業状態や兄弟数から家族関係の親密さや子供部屋や個人PCの有無など)や、幸福度や自己肯定感など心理的要因も網羅した HBSCデータをもとに、いじめ経験が及ぼす幸福度の影響を分析した結果、いじめ経験は、加害者、被害者ともにネガティブな影響を与えるものの、家庭や学校環境をコントロールすると、加害者についてのみその影響は消失するが、被害者と加害者・被害者の両方を経験したものについては有意に負の結果となった。ここでの結果は、いじめは競争社会に適応した行動であるとしたAdaptive theory を支持するものとなった。
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