研究課題
脳内でのアミロイドβ (Aβ)の凝集体(オリゴマー)の生成は,アルツハイマー病の原因の一つとされる.本研究では,このオリゴマー生成を抑制する機能を持った物質をシソ科植物からの探索と誘導体化により開発し,これらをツールとした凝集メカニズムの解明を目的とした.我々はこれまで,シソ科植物に多く含まれるロスマリン酸誘導体の化学構造により凝集体形成速度が異なり,ドッキングシミュレーションではこれら誘導体のAβペプチドへの結合位置も凝集阻害活性と相関性を示すことを明らかにした.本研究では,はじめにシソの活性物質の探索を行ったところ,シソには複数のAβ凝集阻害物質が含まれることが示唆された.誘導体間での活性の違いをより詳細に検討するために,凝集体形成速度のより詳細な解析を行った.その結果,誘導体の構造により凝集体形成の阻害段階が異なることが示唆された.円二色性スペクトル測定によるAβオリゴマーの二次構造の経時的変化を観察からは,オリゴマー生成に重要なβシート構造形成速度や形成量に誘導体の構造が影響していることを明らかにした.また,電子顕微鏡観察では,生成する凝集体の形態は添加する阻害剤により異なることが示唆された.さらに,核磁気共鳴スペクトルにより誘導体はAβ上で相互作用することで凝集を阻害していることが示唆された.このような多面的分析により,ロスマリン酸型阻害剤の微妙な化学構造の違いがAβ凝集阻害機構に影響していることが示唆された.これらの結果は,複雑な工程を経て凝集するAβの凝集過程を整理・評価するために,ロスマリン酸誘導体を有用なツールとして利用できる可能性を示唆している.
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標である核磁気共鳴(NMR)スペクトルによるAβとロスマリン酸誘導体との相互作用の観察の基本的条件は確立され,さらなる解析を進めている.本研究目的を達成するために,Aβ凝集阻害活性の評価において円二色性スペクトルや電子顕微鏡での凝集体の形態観察にも着手することができ,来年度以降の研究推進に当初より幅広いアプローチをすることができた.現在、研究成果を論文にとりまとめて、国際誌に投稿している。
概ね順調に進展している、Aβ凝集阻害機構の解析とその展開を強力に進める。核磁気共鳴法によるAβー阻害剤相互作用研究をより詳細に進める.平成29年度までは予備実験の域をでていない、新規凝集阻害物質のデザインと合成と評価,ADマウスによる行動薬理学的実験は,上記の研究との関連を十分に考慮しながら進める。すなわち、本研究の目的を達成して、Aβ凝集メカニズムの解明とそれに基づく創薬に貢献できるように、できるだけ効率的な研究内容としたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
EUROPEAN JOURNAL OF MEDICINAL CHEMISTRY
巻: 138 ページ: 1066-1075
10.1016/j.ejmech.2017.07.026