研究課題/領域番号 |
16K01912
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
石本 哲也 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (40397170)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ルシフェラーゼ / 活性酸素 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
細胞株HEK293Tを用いて、Chemical CALIの基礎的実験を行った。Chemical CALIに用いるkillerfireflyタンパク質は、蛍の発光タンパク質であるルシフェラーゼと、ルシフェラーゼの発光によって、スーパーオキシドを放出するKillerRedタンパク質によって構成されている。この融合タンパク質に重合アクチンに結合ペプチドをさらに融合させ、細胞内に発現させると、ルシフェリン投与によって誘導されるアクチンの重合が観察されることが分かっている。今回、ルシフェラーゼとKillerRedのどちらをN末端側に配置し、どちらをC末端側に配置するか、また両タンパク質の間にリンカー配列を挿入するかしないかによってChemical CALIの効果が影響を受けるか試験した。その結果、両タンパク質の位置関係、リンカーの有無にかかわらず、融合タンパク質を発現させてルシフェリンを加えた場合、アクチンの重合が観測された。一方、いずれの条件でもルシフェリンを加えない場合はアクチン重合は観測されなかった。これらの結果から、アクチン重合を誘導するChemical CALI技術は確立されたと判断できる。 また、ルシフェラーゼ、KillerRedの融合タンパク質に中間径フィラメントの一つであるビメンチンを融合させたタンパク質も作製し、細胞内に発現させたが、細胞内の内在性ビメンチンとの共局在が観測されなかった。現時点でChemical CALIの技術は特定の対象タンパク質にのみ有効なタンパク質操作技術であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、アクチンの重合を誘導するChemical CALIは成功したが、ビメンチンフィラメントに作用するChemical CALIは失敗した。これは内在性のビメンチンフィラメントに融合タンパク質が取り込まれなかったことが原因であることが分かっている。KillerFireflyに融合させるタンパク質によっては立体構造の構築が障害される場合や、活性酸素に対して抵抗性が強い場合も十分考えられることから、Chemical CALIによって機能制御ができない場合も当初から想定できた。今回試したビメンチンフィラメントに融合したKillerFireflyは、そういったケースに当たると考えられる。KillerFireflyが有効にタンパク質の活性を制御できるかどうかを事前に予測する方法はなく、今後もトライアンドエラーによってKillerFireflyによって機能制御が可能なタンパク質を発見する予定である。今後は、現在Chemical CALIが成功しているアクチン重合制御に関して研究を続行するとともに、それ以外の標的にChemical CALIが使用可能かどうかの検証を行っていきたい。 KillerFireflyから発生する活性酸素の定量をするため、Nitro Blue Tetrazolium法を試してみたが、正常に反応が起こらなかった。今のところ原因ははっきりしないが、反応条件を変えても活性酸素量を計測できないようであれば、Nitro Blue Tetrazolium法以外の方法で活性酸素の計測を行う。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までは、細胞株を用いた基礎段階の研究をおこなってきたが、今年度から神経細胞などを用いたChemical CALIを行う予定である。これにより、Chemical CALIを用いて細胞内のタンパク質の活性に変化を与えることで、神経細胞にどのような機能変化をもたらすか解析できる。神経細胞においてアクチン重合はシナプスの形状制御に関わることが知られているので、ラット海馬神経細胞を培養し、リポフェクションによってアクチン重合を変化させられるkillerFirefly融合タンパク質を発現させる。Chemical CALI技術によって神経細胞内のアクチン重合を亢進させることによって、シナプスの形状や性質に変化を与えられるかを試験する。もしシナプスの形状が変化するのであれば、シナプスの性質も同時に変化しているかどうか、電気生理的実験やカルシウム計測によって検証する。電気的性質が変化するのであれば、シナプスの可塑的変化を誘導するのにアクチン重合の誘導が十分条件であることを示すことができる。また、KillerFirefly融合タンパク質を生体マウスで発現させるためのウイルスの作製も進める。 並行してアクチン以外の標的タンパク質を操作するChemical CALI技術も開発していく。方法としては、細胞骨格や多量体を形成するタンパク質にKillerFireflyを取り込ませ、ルシフェリンを作用させ活性酸素を発生させることで、それらのタンパク質の高次構造が変化するかどうか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画自体はおおむね順調に進んでいるが、論文として発表する段階までは到達しておらず、したがって学会発表も少なかった。当初予定していた海外学会での発表も行わず、それゆえに旅費が計画より少なくなった。研究において必要となった試薬消耗品も、細胞株を用いた実験が主であったため計画より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は、細胞株を用いた実験に加えて、マウスもしくはラットの初代神経細胞を用いた実験、マウス個体を用いた実験を開始する予定である。これらの実験には、動物購入の費用や、個体への遺伝子導入のためのウイルス作製の費用が必要である。従って2016年度より使用額が増加することが予想され、より当初計画に近い予算使用を遂行できると考えられる。
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