研究課題/領域番号 |
16K01914
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下山 敦史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90625055)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リピドA / ジアミノグルコース / 免疫 / 自己免疫疾患 / リポオリゴ糖 / リポ多糖 / 複合糖質 / 糖化学 |
研究実績の概要 |
グラム陰性菌の一種であるCampylobacter jejuni(C.jejuni)は急性腸炎を惹き起こすとともに、感染後、一定の確率で自己免疫疾患を発症させることでも知られている。これは、C.jejuniの細胞膜構成成分であるリポオリゴ糖がヒト末梢神経内ガングリオシドと同じ糖鎖構造を含むことに起因するとされているが、近年、この発症にリポオリゴ糖の末端に存在する糖脂質リピドAも深く関与する可能性が示唆されている。しかしながら、グルコサミン二糖骨格からなる典型的なリピドAとは異なり、C.jejuniに由来するリピドAは、2,3-ジアミノグルコース二糖骨格からなる特異な構造を有するため、未だ合成が達成されておらず、その機能は未解明な部分が多い。本研究では、C.jejuni由来リピドAの効率的合成法を確立し、その機能を解析することで、自己免疫疾患発症への関与について解析を試みる。 平成28年度は、C.jejuni由来リピドAの合成を達成するうえで鍵となる2,3-ジアミノグルコース二糖骨格の構築を行った。当初計画では、グルコサミン二糖骨格を構築した後、3位および3’位の水酸基に対して2度のSN2反応を施すことで立体保持アジド化を行い、2,3-ジアミノグルコース二糖骨格を構築する予定であったが、立体障害等の問題により反応が良好には進行せず、効率的合成ルートの構築が困難であった。そこで、2,3-ジアミノグルコース単糖ユニットをグリコシル化させ、二糖骨格を構築するルートへと変更し、適切に保護された2,3-ジアミノグルコース二糖体を得ることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で合成ターゲットとしているC. jejuni由来リピドAは、効率的合成手法が確立されている大腸菌由来リピドA(グルコサミン二糖骨格と6本のアシル鎖、2つのリン酸基からなる)などとは異なり、脂質のパターンに加え、基本となる二糖骨格を構成する単糖にも多様性がある(グルコサミンもしくは2,3-ジアミノグルコース)。申請者がこれまでに確立してきたリピドA合成戦略は、様々な脂質およびリン酸基パターンのリピドAを合成可能であるが、糖骨格が異なるものには適用できない。また、2,3-ジアミノグルコース二糖骨格の合成例自体がほとんどなく、二糖骨格ライブラリー合成の一貫として一例、報告があるのみで、適切に保護された二糖骨格の合成例は皆無である。このような状態ゆえに、C. jejuni由来リピドAの合成は未だ達成されていない。 そこで、平成28年度は、適切に保護された2,3-ジアミノグルコース二糖骨格の構築に注力した。当初予定していたグルコサミン二糖骨格を2,3-ジアミノグルコース二糖骨格へと変換する合成経路は、立体障害等の理由により反応が良好に進行しなかった。そこで、グルコサミン単糖ユニットを2,3-ジアミノグルコース単糖ユニットへと変換し、得られた2,3-ジアミノグルコース単糖ユニットをグリコシル化するというルートへと変更することで、予定通り、適切に保護された2,3-ジアミノグルコース二糖体を得ることに成功しており、おおむね計画通りの進捗状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
合成法を確立した2,3-ジアミノグルコース二糖体を鍵中間体として、C. jejuni由来リピドAの網羅的合成を行う。C. jejuni由来リピドAの脂質構造は不均一であるが、得られた二糖鍵中間体のそれぞれの保護基は選択的に脱保護可能であり、すべての脂質構造パターンに対応可能である。また、糖骨格についても、グルコサミンもしくはジアミノグルコースを構成成分とする不均一なものであるが、これまでに合成法を確立したグルコサミン単糖ユニットと2,3-ジアミノグルコース単糖ユニットを組み合わせることですべての糖骨格パターンに対応可能であり、本合成戦略によりC. jejuni由来リピドAの系統的合成を目指す。 続いて、合成したC. jejuni由来リピドA群の自然免疫活性化能を評価する。具体的には、合成リピドA群をそれぞれ単球細胞に加え培養した後、培養上清中に放出されるサイトカインの量をELISAにより定量し、アシル基パターン、糖骨格構造の違いが自然免疫活性化能にどのような影響を与えるか精査する。次に、リピドAのような自然免疫リガンドの存在が獲得免疫活性化に与える影響について調べる。具体的には、市販品のガングリオシドより調整したGM1やGD1aといった糖鎖抗原を単独でマウスに注射した場合と、リピドAを共存させた場合の抗体産生量の違いをゲル電気泳動により評価する。自然免疫リガンドが獲得免疫活性化にどのように関与するのか精査し、C.jejuniの感染後に起こる自己免疫疾患の発症にC.jejuniリポオリゴ糖の糖鎖抗原部分に加え、リピドA部分がどのような影響を与えているのか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に計上した予算のうち、14万円ほどを未使用分として平成29年度へ繰り越させていただく。これは、主にその他として計上していた機器修理費用、分析依頼費用が予定より抑えられたためである。繰り越し分は、平成29年度の有機合成試薬の購入費用へと当てさせていただく。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の予算全体の使用計画としては、有機合成で日常的に使用し、C. jejuni由来リピドAの合成を達成する上で必要不可欠である有機溶媒と反応試薬類などを有機合成試薬として計上した。使い捨てのパスツールピペット、バイアル管や比較的良く破損するカラム管、NMR管などのガラス器具類も本研究の目的達成に必要であり、ガラス器具としてまとめて計上した。また、合成化合物の精製に日常的に使うシリカゲル充填剤、純水カートリッジなども本研究で必要になるため精製分離消耗品として計上した。同様な理由で、NMR重溶媒やスペクトル用の溶媒類は機器分析消耗品として計上した。
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