研究課題/領域番号 |
16K01916
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市川 善康 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 教授 (60193439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然物 / 海洋天然物 / 全合成 / 生合成仮説 |
研究実績の概要 |
生物は35億年の進化を経て,生体内の反応システムを構築し,多様な物質群を温和な条件で効率よく合成している。生体内の反応をお手本として模倣すること天然物合成法の斬新な手法として,バイオミメティックな化学合成が発展してきた。 申請者は,「海洋生物が生体内でUgi反応を用いてエグジリン,ボネラタミドAとハリコナジンKを生合成している」という仮説を提案した。Ugi反応とは,ひとつのフラスコでイソシアニド,アミン,アルデヒド(あるいはケトン)とカルボン酸を,一挙に反応させて生成物を得る多成分連結反応である。多種類の類縁化合物を効率的に合成できるため,低分子誘導体のライブラリーを構築する手法としてUgi反応は注目を集めている。 標的化合物として,海洋生物由来の天然物エグジリン,ボネラタミドAとハリコナジンKに着目した。エグジリンは,2003年に太田と池上によって鹿児島県の大島で採集した海綿より単離されたテルペンである。ボネラタミドAは,2004年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のAndersenによって,微量成分として海綿より単離され,X線結晶構造解析によって相対立体配置が決定された。セスキテルペンにグルタミン酸がアミド結合によって連結した特異な構造をもつ。ハリコナジンKは,北海道大学の小林等によって沖縄の運天港にて採取された海綿より単離されたテルペンである(。構造はX線によって解明され,対称的なピペリジン骨格に2つのテルペンが結合している構造が決定された。ハリコナジンC,グリオキザル酸とリジンより,Ugi反応によって生合成されていることが,推定されている。 本研究では,海洋生物由来の含窒素テルペンである「エグジリン,ボネラタミドAとハリコナジンGが,生体内でUgi反応によって生合成されている」という仮説を基盤として,生合成仮説に立脚した全合成を目ざしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両鏡像体が入手可能なメントールを出発原料として選んで,絶対構造が未決定であるボネラタミドAの合成に取り組んでいる。メントールを酸化してメントンを調製した。そしてメントンをLDAとギ酸メチルを用いてホルミル化して,さらに水素化アルミニウムリチウムで還元してアリルアルコールを合成した。このステップの収率が20~30%であり,改良を検討する予定である。さらにオルトニトロフェノールを酸触媒として,オルトプロピオン酸エチルとの反応によりクライゼン転位反応を経由して不飽和エステルとした。さらにエステル基に対するフェニルメチルスルホンの付加反応によってケトスルホンを調製した。トリエチルアミンを塩基として用いたスルホニルアジドによるジアゾトランスファー反応により,ジアゾケトスルホンを合成した。Coreyによって報告されている銅触媒を採用して,ジアゾケトスルホンより発生したカルベンの分子内付加反応を行った。この結果,メントン骨格上にスピロ環と五員環を構築してボネラタミドAの鍵中間体の合成に成功した。現在,アジドイオンによるシクロプロパン環の開環反応を検討しており,得られた生成物の立体構造を確認中である。 熱力学支配条件で,メントンをホルミル化して,上述した合成ルートを応用してエグジリン合成の中間体を合成した。以上,現在までの進歩状況として,メントンあるいはイソメントンにスピロ環と五員環が結合した重要合成中間体を得ることに成功している。 ハリコナジンの中央部分のピペジリン骨格のモデル合成に関して,Ugi反応を用いたピペリジン環構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
合成に成功したボネラタミドAの鍵中間体は,カルボニル基とスルホン基によって活性化されたシクロプロパン環を有する。そこでシクロプロパン環の立体選択的な開環によって窒素官能基を導入する方針で研究を進めている。ラセミ化することなくSN2的に開環できれば,所望する立体化学のアジド基を導入できる。すでに開環生成物を得て,赤外スペクトルによりアジド基導入を確認している。さらにアジド基の立体化学を確認中であるが,1HNMRのピークの重なりが顕著であり,障害となっている。この問題を解決する目的で,結晶性の誘導体を調製して,X線結晶学的単結晶解析を検討する予定である。また中間体の大量合成を行うために,早稲田大学の細川先生を共同研究者として迎えて,体制を整えつつある。構造を確認できたら,アジドを還元してアミノ基とする。さらにホルミル化して脱水反応を行い,イソニトリル基を構築する予定である。そしてスピロ5員環の三置換オレフィンを導入してアクスイソニトリル-3の合成の完成を目指す。アクスイソニトリル-3は,1976年に単離が報告されている海洋生物由来のテルペンであり,ボネラタミドA生合成の中間体と考えている。 提唱した生合成仮説「ボネラタミドAとハリコナジンGが,生体内でUgi反応によって生合成されている」の妥当性を確認するために,アクスイソニトリル-3,アセトンとグルタミン酸誘導体を用いたUgi反応を行い,ワンポットで一挙にボネラタミドAの骨格を構築して,全合成ルートを完成する予定である。最終生成物の構造は,X線結晶構造解析によって行う方針である。数グラムのスケールで合成できるルートを確立して,生物活性評価のサンプルを供給する計画である。
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