研究課題/領域番号 |
16K01923
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
向井 秀仁 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (20251027)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体機能物質 / 活性発現の分子機構 / クリプタイド / 自然免疫機構 / 炎症 / 好中球 / 肥満細胞 / 肝傷害モデル |
研究実績の概要 |
我々はすでに、好中球の組織浸潤を惹起し、さらに活性化するミトコンドリアタンパク質由来の新しい生理活性ペプチド、マイトクリプタイド-1(MCT-1)ならびにマイトクリプタイド-2(MCT-2)を生体から単離・同定している。さらに、それら以外にも多数のミトコンドリアタンパク質由来の好中球活性化ペプチドが生体内に存在する可能性が高いことを示している。そこで本研究では、それら一群のミトコンドリアタンパク質由来好中球活性化ペプチド、マイトクリプタイド(MCTs)の生体機能を個体レベルで解明すること、ならびに受容体を同定し情報伝達機構を明らかにすること、により、リウマチや虚血性心疾患、アルツハイマー病など、様々な非感染性炎症をともなう疾病の発症におけるMCTsの役割を明らかにすることを目的としている。本年度の研究の結果、1)非常に高い好中球活性化能を示すペプチド、マイトクリプタイド-3(MCT-3)をはじめとした3種類のMCTsに対する特異的中和抗体を獲得するとともに、MCT-3に対する拮抗阻害ペプチドの獲得にも成功した。また、2)マウスにおける薬剤誘導肝傷害モデルにおいて、惹起される肝臓への好中球の浸潤に対する様々なMCTsに対する中和抗体の効果を検討した結果、MCTs中和抗体の静脈投与により、肝臓への好中球の浸潤が抑制される傾向にあること、3)MCT-3の情報伝達にGi2タンパク質が関与していること、4)MCT-3に対する受容体は、従来のGタンパク質共役受容体と異なり、Gi2タンパク質を含む少なくとも4種類以上のタンパク質からなる複合体である可能性が高いこと、5)非感染性の炎症を起こす因子として近年注目されている因子群であるミトコンドリア由来の傷害関連分子パターン(mtDAMPs)中にMCT-2ならびにMCT-3関連ペプチドだと考えられる免疫活性が存在すること、が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はすでに好中球を活性化する新しい生理活性ペプチド、MCT-1ならびにMCT-2を同定しているが、最近の我々の研究で、それらがmtDAMPsを構成する自然免疫活性化因子と同様の活性を持つことが明らかになっている。そこで本研究では、それらMCTsの、(1)生体機能を個体レベルで解明すること、(2)受容体を同定し情報伝達機構を明らかにすること、(3)MCTsとmtDAMPsとの関連を解明し、様々な非感染性炎症をともなう疾病の発症におけるMCTsの役割を明らかにすることで、それら難病に対する革新的な治療法や治療薬を提供することを目的とし研究を遂行している。当初計画では本年度、様々なMCTsに対する中和抗体ならびに拮抗阻害薬を創製すること、MCTsに対する受容体同定を試みること、さらにはmtDAMPs中における様々なMCTsの存在およびその分子形態を検討することを目標としていた。すでに、「研究実績の概要」でも述べたが、本年度の研究により、MCT-3をはじめとしたMCTsに対する特異的中和抗体を獲得することに成功するとともに、MCT-3に対する受容体がGi2タンパク質をはじめとした4種類のタンパク質複合体である可能性を見いだしている。さらに、マウスにおける薬剤誘導性肝傷害モデルにおいて、MCT-1を含む複数種のMCTsが好中球の浸潤に関与していることを明らかにするとともに、非感染性組織傷害への関与が示されているmtDAMPs中にMCT-2およびMCT-3関連ペプチドが存在していることを示唆するに至っている。これらの結果は、我々が見出した一群の新たな生理活性ペプチド、MCTsの非感染性炎症に対する関与を示す意義深い結果である。さらに本年度の研究により、MCTsに対する受容体タンパク質複合体へのGi2タンパク質の関与も示唆されており、本研究が順調に進捗していると言える結果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、我々が同定した一群の新しい好中球を活性化する生理活性ペプチド、MCTsの生体機能を明らかにするとともに、様々な炎症との関連を解明することを目的としている。上述したように、本年度の検討により、MCT-1を含む複数種のMCTsが急性肝傷害の発症に関与している可能性が示されたが、今後はMCTsについて、さらに様々な炎症との関連を検討するとともに、MCT-3をはじめとした高い活性を持つMCTsに対する受容体タンパク質複合体の同定および情報伝達機構の解明を目指す。また、mtDAMPsを構成する活性化因子の化学的同定を試みる。 1)好中球におけるMCTsに対する受容体の同定: 好中球様細胞において、同定した4種類のタンパク質の発現をノックアウトし、MCTsの情報伝達に関与するものを選別する。情報伝達への関与が認められたタンパク質については、それらを細胞に発現させ、その機能を解析することにより受容体あるいはその複合体を構成するタンパク質を同定する。 2)傷害モデルにおけるMCTsの関与および分子形態の解析: (a)腎臓や心臓、あるいは火傷などをはじめとした様々な組織傷害モデルを、マウスあるいはラットで作製・構築する。そして、あらかじめMCTsに特異的な中和抗体あるいは拮抗薬を尾静脈より投与した後、組織傷害を起こすことで、それらが様々な組織傷害の病因因子であるかを検討する。 (b) 傷害モデル動物の血液あるいはmtDAMPs中における様々なMCTsの存在を、本研究で獲得しているMCTsに対する特異的抗体を用いて解析する。存在が示唆されたMCTsについては、様々なクロマトグラフィーを用いて血液サンプルあるいはmtDAMPsを分画し、含まれるペプチド成分について質量分析やエドマン分解により配列解析することで、mtDAMPsあるいは体循環中におけるMCTsの存在およびその分子形態を解析する。
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