発光ゴカイは世界的にホットスポット状に散在しており、いずれも採取が困難なことからその発光分子機構に関する研究は進んでいなかった。日本国内では富山湾での生息が確認されているものの、採取可能な時期は秋口の2週間ほどに限られ、しかも、海面に現れるのは日没後わずか30分程度であるため、多量に試料を集めることは極めて困難であった。そうした中、我々は次世代シーケンサと微量精密質量分析技術を組み合わせることで、5個体程度の発光ゴカイから新規なルシフェラーゼを同定し、そのクローニングを完了していた。さらに、このルシフェラーゼを組換えタンパク質として生産する系も確立できたことから、本研究において、未解明の発光ゴカイルシフェリンの同定を目指した。ルシフェラーゼ解析の経験から、ゴカイ発光分泌液はタンパク質成分としてはほぼルシフェラーゼのみからなることがわかっていたため、同様に低分子成分もその大半はルシフェリン (あるいはその分解物等)からなるものと想定して、各種解析を行なった。具体的には、生きた発光ゴカイから発光分泌液のみを丁寧に回収し、溶剤での抽出を行ない、薄層クロマトグラフィーにて分画し、液体クロマトグラフィー(LC)でさらに解析したところ、いくつかの主要なピークが見られたため、これらについてさらに解析を進めた。また、我々はすでに精製済み組換え発光ゴカイルシフェラーゼを得ていたので、ルシフェラーゼとルシフェリン粗抽出を反応させ、その前後でのLCのピークパターンの変化に着目し、質量分析を行うターゲットを絞り込み、解析を進めた。質量分析から予想されるルシフェリンの分子量や予想される側鎖構造などに基づき、その基本骨格部分から有機化学合成を始めた。得られた一部の合成物に対して、発光反応を試してみたが、基質となりうるものは得られなかった。このため、発光反応には側鎖構造が必須であると考えられた。
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