研究課題
蛍光イメージング技術はより高精度な観察手法の開発に向かっている。へリックスバンドル型タグ-プローブシステムは会合に伴う蛍光増大が観察されるため,細胞内の反応をミリ秒単位で観測することが出来ると期待される。本研究ではゲノム上の標的タンパク質遺伝子にタグ遺伝子を導入して,恒常的なタンパク質発現という条件下での観察手法を開発する。この手法では,会合後にミリ秒単位以内で蛍光が増大するタグ-プローブシステムにより,タンパク質の翻訳過程から局在部位への移動までを高精度に追跡できると考えられる。細胞内におけるタンパク質新生から局在化までをタイムラプス観測する技術としてへリックスバンドル型タグ-プローブシステムを利用する。初年度ではペプチド合成で作製したタグ,プローブペプチドを用いてストップトフロー法により蛍光増大に要する時間をミリ秒単位で測定する。タンパク質翻訳過程から局在化までを追跡するためにtet-onプロモーターをもつプラスミドを用いて細胞内で観察を行う計画を立てた。ストップトフロー装置を利用した蛍光強度変化の測定ではプローブ溶液とタグ溶液の混合と同時に蛍光強度の変化を追跡した。その結果100~200ミリ秒以内での蛍光強度の飽和が観察された。従って,当初予測していた通り,非常に早い反応を追跡する蛍光プローブとして利用することが可能であると判断された。また,tet-onシステムで利用するタンパク質発現ベクターの構築も計画通りに行い,GPCRであるCXCR4,プロテインキナーゼC(PKC)に赤色蛍光タンパク質mKOを融合したマーカータンパク質の発現について検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究実施計画では下記の項目を立てていた。下記項目はおおよそ実施することができたため順調な進展と評価している。1.タグおよびプローブペプチドの合成と精製 タグ-プローブペア形成による蛍光強度変化について速度論的解析を行うためにタグペプチドとプローブペプチドをFmoc固相合成法によって合成する。プローブには環境応答性蛍光基である4-nitrobenzo-2-oxa-1,3-diazole(NBD)を用いる。NBDは2,3-diaminopropanoic acidと縮合し,Fmoc化することで他のFmocアミノ酸と同様に固相合成でペプチド鎖に縮合できる。合成したタグ,プローブペプチドは逆相HPLCによって精製する。2.タグ-プローブペア形成による蛍光増大過程の解析 ストップトフロー装置を設置した蛍光分光光度計を利用して,タグとプローブを混和後からミリ秒単位での蛍光増大を測定する。購入予定のストップトフローシステムはデッドタイムが1ミリ秒以下のため詳細な解析が可能である。また温度変化による蛍光増大の違いなども確認する。3.tet-on型プロモーターを利用した転写開始制御系の構築 細胞内においてタグ-プローブペアの形成を時間的に制御配列と標的タンパク質の標的遺伝子を導入したプラスミドをサブクローニングで構築する。標的タンパク質を可視化するために常に蛍光観察できる蛍光タンパク質遺伝子(monomer Kusabira Orange:mKO)をC末端側に導入する。従って,タンパク質発現時にはタグ-標的タンパク質-mKOの融合体が生じる。未消化の項目として、細胞内におけるtet-on制御によって生じるタグ付加タンパク質の発現,局在変化の追跡が挙げられるが、これについては次年度の初期段階で速やかに実施する予定である。
前年度未消化であった細胞内におけるtet-on制御によって生じるタグ付加タンパク質の発現,局在変化の追跡に取り組む。また,下記の3項目に取り組む。1.選択した標的タンパク質遺伝子のためのガイドRNA(gRNA)およびドナーテンプレートの構築 細胞膜に局在するCXCR4,プロテインキナーゼCを標的としてタグ配列遺伝子を導入する。翻訳過程の早い段階を捉えるためにタグ配列の導入位置はタンパク質のN末端とする。翻訳開始コドン直後にタグ配列遺伝子が導入されるようにドナー遺伝子をデザインする。CRISPR-Cas9システムではgRNAをデザインすることが必要だが,翻訳開始コドンの近傍で標的化が可能な配列を数種類選択してgRNA遺伝子を持つプラスミドを構築する。2.ゲノム編集技術を利用したタグ遺伝子の標的タンパク質遺伝子への組込み ゲノム編集技術として最も時間効率の良いCRISPR-Cas9システムを利用する。細胞は染色体数が45本と正常に近いHCT116細胞を第一選択肢とする。gRNAプラスミドとドナー遺伝子,およびCas9をコードするプラスミドを同時にトランスフェクションする。トランスフェクションした細胞のゲノムDNAについてタグ配列が挿入されていることをPCRによって確認する。3.両アレルにタグ配列遺伝子が導入された細胞選択とクローン樹立 培養した細胞群はタグ配列遺伝子をどちらかのアレル,もしくは両アレルに持ったものが混在している。より明確な観察結果を得るためにここでは両アレルにタグ配列遺伝子を持つ細胞を選択してクローン化する。選択方法としてsibセレクション法を利用する。
使用予定の消耗品購入が予定より少なくなったため。
次年度の消耗品費用として使用する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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