研究課題/領域番号 |
16K01931
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
野村 渉 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (80463909)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光イメージング / ゲノム編集 / タグープローブ / タンパク質 |
研究実績の概要 |
蛍光イメージング技術はより高精度な観察手法の開発に向かっている。へリックスバンドル型タグ-プローブシステムは会合に伴う蛍光増大が観察されるため,細胞内の反応をミリ秒単位で観測することが出来ると期待される。本研究ではゲノム上の標的タンパク質遺伝子にタグ遺伝子を導入して,恒常的なタンパク質発現という条件下での観察手法を開発する。この手法では,会合後にミリ秒単位以内で蛍光が増大するタグ-プローブシステムにより,タンパク質の翻訳過程から局在部位への移動までを高精度に追跡できると考えられる。細胞内におけるタンパク質新生から局在化までをタイムラプス観測する技術としてへリックスバンドル型タグ-プローブシステムを利用する。初年度においてはペプチド合成で作製したタグ,プローブペプチドを用いてストップトフロー法により蛍光増大に要する時間をミリ秒単位で測定し,100~200ミリ秒以内での蛍光強度の飽和が観察された。そのため,当初予測していた通り,非常に早い反応を追跡する蛍光プローブとして利用することが可能であることが示された。また,タンパク質翻訳過程から局在化までを追跡するためにtet-onプロモーターをもつプラスミドを用いて細胞内でタグ-mKO(赤色蛍光タンパク質)-H2B融合タンパク質の発現過程を観察し,時間経過によるタンパク質局在の変化を明らかにした。また,ゲノム上でのH2Bコード配列に対してタグ遺伝子をゲノム編集を利用して導入するためにCRISPR-CasのsgRNAを構築し,変異導入効率について検討を行った。最終年において細胞内ゲノムから発現されるH2Bの蛍光観察を実現するために必要なデータが取得された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究実施に引き続き、当初の研究計画におおよそ沿う形で実施することができたため順調な進展と評価している。 1. 細胞内におけるtet-on制御によって生じるタグ付加タンパク質の発現,局在変化の追跡を実施した。標的タンパク質として膜受容体CXCR4, ヒストンタンパク質H2B, プロテインキナーゼCを選択し、それぞれにタグ配列と蛍光タンパク質mKOを融合したタンパク質の遺伝子をtet-on発現ベクターに搭載し、細胞内に導入した。Doxの添加後の時間経過に応じて、タンパク質発現、局在変化をmKOの蛍光観察によって確認を行った。各タンパク質について同じ実験観察を行った結果、H2Bにおいて最も明確なタンパク質発現の確認と核内への局在を観察することができた。このためH2Bの発現を指標にタグ-プローブペアでの観察も進めることにした。 2. 選択した標的タンパク質(H2B)遺伝子のためのガイドRNA(sgRNA)およびドナーテンプレートの構築 細胞核内に局在するヒストンタンパク質H2Bを標的としてタグ配列遺伝子をゲノム上に導入する。翻訳過程の早い段階を捉えるためにタグ配列の導入位置はタンパク質のN末端とした。翻訳開始コドン直後にタグ配列遺伝子が導入されるようにドナー遺伝子をデザインし、その配列を搭載したベクターを構築した。ゲノム上への導入はCRISPR-Cas9を利用し、翻訳開始コドンの近傍で標的化が可能な配列を数種類選択してsgRNA転写に利用するプラスミドを構築した。このsgRNAを利用したゲノム編集効率の評価には細胞は染色体数が45本と正常に近いHCT116細胞を利用したが、編集効率は平均して5%程度である。より効率的なドナー遺伝子の導入のためにこのステップの効率改善も必要とされると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの取り組みを継続させ、ゲノム上の標的タンパク質(H2B)遺伝子へのタグ配列の組み込みを行い、ネイティブ状態でのH2B発現についてタグ-プローブペア形成による観察が行えるか検討を進める。最終年度の取りまとめができるよう必要な実験データの収集も同時に行う。 1. 細胞内におけるtet-on制御によって生じるタグ付加タンパク質の発現,局在変化の追跡に取り組む。既に構築しmKOの蛍光観察によるタンパク質発現~局在変化が完了する時間経過について解析を済ませているが、mKOの観察ではタンパク質フォールディングを経るためタイムラグが存在すると考えられる。そこでタグ-プローブペアを利用した観察も同時に行い、mKO観察でのタイムラグについて詳細に検討する。 2. H2Bゲノムを標的としたCRISPR-Cas9によるゲノム編集でのタグ遺伝子配列の導入についてHCT116細胞を利用して4箇所を標的として設定したsgRNAを利用し変異導入効率を既に検討している。しかし、導入効率は平均して5%程度と低く、ドナーテンプレートを用いたタグ遺伝子配列の導入に支障が生じる可能性が考えられた。そこで複数のsgRNAを利用し、より高い効率でのドナー配列の導入を検討する。Cas9をコードするプラスミドを同時にトランスフェクションする。トランスフェクションした細胞のゲノムDNAについてタグ配列の導入をPCRによって確認する。 3.両アレルにタグ配列遺伝子が導入された細胞選択とクローン樹立 培養した細胞群はタグ配列遺伝子をどちらかのアレル,もしくは両アレルに持ったものが混在している。より明確な観察結果を得るためにここでは両アレルにタグ配列遺伝子を持つ細胞を選択してクローン化する。選択方法としてsibセレクション法を利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)使用予定の消耗品購入が予定より少なくなったため。
(使用計画)次年度の消耗品費用として使用する予定である。
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