研究課題/領域番号 |
16K01933
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
蓑島 維文 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20600844)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / ヒストン脱アセチル化酵素 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究ではがん、精神疾患等の疾患発症に関連する酵素、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の細胞内における活性を蛍光イメージングすることを目的とする。蛍光イメージングにあたり、HDACの基質であるアセチルリジンとDNA結合色素から構成される蛍光プローブを用いる。この蛍光プローブは基質の脱アセチル化に伴い、プローブの電荷状態が変化することで負電荷を有するDNAに結合し蛍光が上昇する性質を有している。従って細胞イメージングへの応用に関して、蛍光プローブの投与後細胞内のHDACと反応して核内のDNAに結合し、蛍光シグナルが得られることが期待される。 本年度では細胞内HDAC活性をイメージングするために、酵素と反応する基質部分の検討を行った。具体的にはHDACの活性を効率よく抑制することが知られている阻害剤の構造を基質に導入し、新たな蛍光プローブを設計した。これまでにHDACの阻害剤としてトリコスタチンA(TSA)やSAHAといった化合物が報告されており、これらは阻害能を示すアセチルリジンアナログの近傍に芳香環を有している。この部分は基質が結合するポケットの入り口に配置しており、周辺の疎水性のアミノ酸と相互作用していることが構造解析により示唆されている。そこで、基質であるアセチルリジンの近傍に芳香環を導入した新たなプローブを設計、合成し、HDACとの反応性を評価した。色素の導入位置や、置換基における影響も検討した。結果として、阻害剤の部分構造を導入した新規プローブにおいて、これまでと異なるHDACとの反応性を見出し、特に核内に多く発現し、がんや神経系の疾患に関与することが示唆されているHDAC2が迅速に検出できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基質部分を改変した蛍光プローブを各種HDACと反応させ、HPLCにより生成物である脱アセチル化体を解析したところ、芳香環をアセチルリジンのC末端側に連結したプローブではこれまでに開発した蛍光プローブとは異なる反応性を示した。特に、これまでの蛍光プローブでは検出できなかったクラスIに属するHDAC2に対しての反応性が大幅に向上した。DNA結合色素の導入位置により酵素との反応性に若干の差は見られたものの、いずれもHDAC2との反応後1時間程度で基質の消費を確認することができた。また、これまで開発した蛍光プローブと同様、クラスIに属するHDAC3、及びクラスIIIに属するSIRT1に対しての反応性は維持されており、基質部位の改変により検出できるHDACの種類の拡張に成功した。 続いて実際に酵素反応に由来する蛍光プローブの電荷状態の変化により、蛍光強度が上昇するかどうかを測定した。プローブをHDAC2と反応させた前後の蛍光上昇比は4~5倍程度であったが脱アセチル化反応の進行に伴い、蛍光強度が上昇していくことを確認することができ、この酵素の蛍光検出に成功した。一方でDNA結合色素の導入位置に関して検討を行ったところ、蛍光強度に差が見られており、色素の導入位置が蛍光プローブのDNAに対する結合能に影響していることが示された。この結果はプローブ存在下でDNAの融解温度を測定した結果とも対応しており、DNA結合色素の導入位置により、DNAとの複合体形成のしやすさに影響が出たものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を基に、細胞内HDACの活性評価、イメージングに開発した蛍光プローブが使えるかどうかを検討する。今回、HDAC阻害剤の構造を基に基質を改変して得られた蛍光プローブは、核内で豊富に存在するHDAC2との優れた反応性を有しているため、核内抽出液を使ったHDAC活性検出を試みる。反応後の生成物の確認をHPLCで確認し、脱アセチル化反応のみが特異的に起こっているかどうかを検証する。加えて、蛍光による検出も進める。HDACとの反応性に由来するかどうかは阻害剤添加によって確かめる。HDACはクラスごとに特異性の異なる阻害剤が開発されているため、阻害剤を使い分けることでどのクラスの酵素が反応に関与しているかどうかの情報を得ることができると考える。また、蛍光シグナルのOFF-ON比の向上を目指し、初年度で取り組んだ複数のアセチルリジンを導入するアプローチも取り入れ、脱アセチル化反応をより精度良く検出できる蛍光プローブの開発に取り組む。 また、培養細胞を用いたイメージングも試みる。培養細胞に蛍光プローブを添加し、蛍光顕微鏡を用いて細胞を観察する。処理条件に関して、蛍光プローブの処理濃度・時間での細胞毒性を評価し毒性が出ない条件を検討する。蛍光シグナルが核内から観察できた場合、HDAC阻害剤を使って確認を行う。癌細胞由来の培養細胞を中心に細胞の種類を変えて蛍光イメージングを行い、HDAC活性の細胞間による差を評価する。また、マイクロプレートリーダーによる評価も行い、セルベースのHDAC活性阻害アッセイ系を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 高価な細胞実験用の試薬を次年度に購入することとしたため、本年度の使用額が予定より少なくなった。 (使用計画) 細胞培養実験に用いる消耗品、器具、核内蛋白質抽出キット等の購入に充てる予定である。
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