前年度までに開発した蛍光プローブを用いて、細胞内のHDAC活性の検出を行った。培養したHeLa細胞からHDACを含む核抽出液を調製し、開発した新たな基質を有する蛍光プローブと反応し、DNA存在下での蛍光強度の変化を観察した。その結果、基質にHDAC阻害剤であるTSAの部分構造を導入した改変型の蛍光プローブは、以前までの蛍光プローブでは見られなかった蛍光の上昇を観察することができた。実際に酵素反応によるものかどうかを確認するためにHPLC分析を行ったところ、蛍光上昇に対応して脱アセチル化体の生成が検出された。この結果から、新たに合成した蛍光プローブは細胞の核内のHDACによって脱アセチル化され、蛍光により検出できることが示された。この原因としては、基質部分の改変により検出可能となったクラスIのHDAC2が核内に豊富に存在していることに由来するものと考えられる。実際に、検出系にクラスIのHDAC2の阻害剤を加えた際に蛍光上昇が見られなかったのに対し、クラスIIIのHDAC阻害剤では蛍光が上昇したままであったことから、クラスIに属するHDACが核抽出液における脱アセチル化反応に関与していることが裏付けられた。また、培養細胞に蛍光プローブを添加し、核からの蛍光シグナルに変化が見られるかどうか蛍光顕微鏡観察を行ったが、核からの蛍光シグナルは観察されなかった。蛍光プローブの核内への送達に問題があるものと考えられるため、今後はプローブの核送達を可能にするペプチド等の導入を進める予定である。
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