研究実績の概要 |
本研究課題は、Cystathionine beta-synthaseやCystathionine gamma-lyaseにより産生される硫化水素、チオール(分子内に-SH基を持つ)化合物、そしてパースルフィド(分子内に-SSH基を持つ)化合物等「活性含硫化合物」の生体機能メカニズムの解明を目的とする。 申請者は本研究課題での成果として活性含硫化合物の絶対定量法の確立に成功しているが、平成29年度は、活性含硫化合物の組織内分布の検証を目的としMALDI-MS-imaging法による活性含硫化合物の検出を試みた。しかしMALDI-MS-imaging法では-SH基、-SSH基ともにスルフォン酸化(-SO3H)されてしまい、生体内での挙動を正しく判断出来ないことがわかった。そこで平成30年度は新たにラマンイメージング法を試みた。物質固有の波長を持つ散乱光が生じるラマン散乱を利用した手法で、さらに試料を乗せるガラス基板に金属微粒子を配置することにより散乱光が増強されるSurface-enhanced Raman spectroscopy (SERS)という手法を用いると、硫黄原子が金粒子と結合し活性含硫化合物由来のシグナルが増強される。この手法を用いグルタチオン、ヒポタウリン等の標準品による検証から-SH基を持つ化合物に共通に検出される波数(300cm-1)が明らかとなり、さらにNa2S3, Na2S4の標品を用いた検証からポリサルファー由来のシグナル波数(480cm-1)が明らかとなった。そこでマウス心臓組織の凍結切片でSERS imagingを実施したところ、心臓組織内に300cm-1と480cm-1のシグナルが検出され、さらにこれらのシグナルはチオールの蛍光プローブを心臓組織切片に滴下することにより消去されたことから、活性含硫化合物由来のシグナルであることが確認出来た。
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