がんに特異的な代謝機構は有望な創薬標的になると考えられるが、がんの代謝機構は多様性や適応性を有し、複雑で不明な点が多いのが現状である。多くのがん細胞は解糖系が亢進しているが、興味深いことに、ヒト骨肉腫MG-63細胞はグルコースがなくても増殖することを見出した。本研究は、MG-63細胞の代謝特性を利用して、グルコース非依存的ながん代謝機構を標的とした小分子阻害剤を開発することを目的とする。本年度は、主に薬剤スクリーニングで得られたヒット化合物の作用解析を行った。 糸状菌RK17-F0007の培養抽出物が、グルコース非存在下選択的にMG-63細胞の増殖を阻害することを見出した。活性成分の単離、精製、構造解析を行い、活性本体として化合物1を同定した。化合物1はこれまでに報告のない立体構造を有していた。化合物1を処理した細胞では、短時間で酸素消費の低下が観察されたことから、化合物1はミトコンドリア呼吸鎖を標的にしていることが示唆された。 理研NPDepo化合物ライブラリーから、RCOP8154が同様にグルコース非存在下選択的にMG-63細胞の増殖を阻害することを見出した。本化合物は長時間処理で酸素消費の低下を引き起こしたが、呼吸鎖複合体のいずれも直接阻害しなかったことから、標的がミトコンドリア呼吸鎖とは異なることが示唆された。RCOP8154が自家蛍光をもつことを見出し、蛍光顕微鏡で細胞を観察したところ、本化合物はミトコンドリアに局在することがわかった。光親和型化合物固定化法で作製したRCOP8154固定化ビーズを用いて結合タンパク質をアフィニティ精製した結果、ミトコンドリア機能の維持に重要ないくつかのタンパク質を同定した。同定した結合タンパク質のノックダウン実験等により、RCOP8154の作用機序を検証した。
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