研究課題/領域番号 |
16K01944
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
正本 和人 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (60455384)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経血管ユニット / 動物モデル / 慢性低酸素 / オプトジェネティクス / in vivoイメージング / 脳血流 / 脳微小循環 |
研究実績の概要 |
本年度は老齢ラット群(N=9)を用いて、脳微小血管内の血流の揺らぎに着目した解析手法を提案した。本研究成果は第42回日本微小循環学会総会にて論文発表を行った。主な成果としては、毎秒80フレームで撮像した毛細血管内において蛍光標識を施した赤血球と血漿の比を定量化し、時間的な揺らぎについて各血管部位で解析を行った。その結果、細動脈および細静脈においては、血管の径の揺らぎに対して血流の動的ヘマトクリットは一定に保たれるのに対し、毛細血管領域では血管の径の変化によらず動的なヘマトクリットが大きく変化することがわかった。さらにこの血球血漿の配分については、血管内の流速よりも血管ネットワークの接続に依存する可能性が示唆された。今後は、さらに血球血漿の流動特性が脳内の神経活動とどのように関連するのかを明らかにする必要がある。 また、血流を増強する手段として新たに光を用いた脳血流増強のメカニズムについて、薬理実験による検討を重ねた。本研究成果は日本脳循環代謝学会、日本神経学会、日本脳卒中学会、世界脳循環代謝学会等の関連学会で発表し、大きなインパクトを与える成果となった。これらの成果は実験マウスを用いた結果であるため、今後人への臨床応用について検討を重ねる必要がある。特に血流増強によって神経活動や脳の認知機能にどのような影響を与えるのか、慎重に検討を重ねる必要がある。これまでに脳血流の増強によって脳内へのILGF1の移行が促進されることが報告されており、本研究結果との関連、特に脳内の血管新生や神経機能の可塑的な変化との関連について検討を深めていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究テーマに関連し国内において8件の学会発表および4件の招待講演を行い、十分な成果を得た。血管新生の増強に関しては、脳血管を接続する最終過程において重要な役割を果たす細胞を同定することに成功した。現在、細胞の特異的な阻害による血管新生への阻害効果に関する検証実験を行っており、これまでの仮説に矛盾しない予備データを得ている。同時に、本研究成果の一部は先の世界脳循環代謝学会でも発表を公開しており、現在論文の執筆中である。よって進捗状況は順調であると判断される。 一方、解析手法の構築に関しても大きな進展を得ている。二光子顕微鏡で撮像した神経機能画像および毛細血管画像をMatlabを用いて3次元再構成し、細胞については脳表からの深さや血管からの距離といった位置情報を与えて、細胞のIDとして保存している。一方の血管の形状解析においても従来のセグメント化の概念から脱却し、血管内のすべての計測ポイント(6000-10000点)を大規模に解析し、血管の接続や動脈・静脈からの距離といったネットワークのパラメータと細胞活動との相関を求めることができるようになっている。同様に本研究成果の一部は先の世界脳循環代謝学会で発表しており、今後論文化に向けた詰めの検討を行っていく予定である。このように、解析手法の開発においても、本研究テーマの進捗は極めて順調であると判断される。 脳血流への揺動については、光の照射で与える方法は既に確立済みであるが、新たに運動負荷や薬物負荷によるモデルを構築している。こちらの進捗は次年度以降の課題であるため、プロジェクト全体を通しておおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
脳血管の新生モデルにおいては、血管の発芽におけるメカニズムが未解決である。ここには血管周囲のぺリサイトが関わっていると考えられるため、本年度以降、ぺリサイトに特異的な蛍光タンパク質を導入した遺伝子組み換えマウスの導入を検討する。 また血流の増強方法については、全身性および局所性の比較に関して、全身性のモデルの構築が必要である。運動負荷および薬物負荷による血流増強の効果について、本年度以降にパラメータの最適化を行っていく。 さらにこれらの神経機能効果を評価するために、本年度は皮質内での学習モデルを構築するための実験装置を新たに導入する。これによって、脳血流、脳血管の増強による局所部位での神経機能効果との因果関係を直接明らかにすることを試みる。 また神経機能、血管反応、血流の評価に関しては既にin vivoにおいて評価が可能な実験系が確立されており、今後も安定してデータの取得および解析が行える状況である。 正常モデルでの対象データが取れ次第、あわせて認知症や虚血による病態モデルとの比較を行っていく。
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