研究課題/領域番号 |
16K01944
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
正本 和人 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60455384)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳血流 / 生体光イメージング / 動物モデル / 画像計測 / レーザー顕微鏡 / 脳病態 |
研究実績の概要 |
本年度は、実験マウスを用いた運動負荷実験のプロトコルを確立し予備計測を行った。マウス3例に対して1日の走行距離を測定したところ、1日当たりの1匹の運動量に換算すると約400mの運動量が計測され、本予備結果は先行研究と同様の値であることを確認した。 つぎに、覚醒下での体性感覚刺激時の脳活動に関して、従来のレーザードップラー組織血流計測計を用いた計測手法に加えて、二光子レーザー顕微鏡を用いた大脳皮質微小血管構造の変化、および細胞内カルシウム蛍光センサーを用いた神経活動の同時計測法を構築した。8例のマウスより良好な計測データが得られ、刺激頻度に応じた細胞活動の上昇、および毛細血管の拡張・収縮反応について計測データが得られた。さらに手法の妥当性を確認するため、カイニン酸の投与によるてんかんを惹起し、全3例において再現性のよい安定した計測データが得られた。これらの研究成果は、本年度ベルリンで開催された世界脳循環代謝学会において論文発表を行い、多くの反響が得られ、現在国際雑誌への投稿準備中である。一方、脳病態モデルにおける脳血流の評価法として、本研究計画では脳微小血管内での赤血球の動きに着目し、蛍光標識された赤血球の動態計測を行った。これまでに、血球の流れを計測するためには高速度のビデオカメラを用いるか、レーザー顕微鏡によるライン操作法で個々の血球の動きを捉える技術がある。しかし、従来法では血管周囲の細胞活動と血流評価を同一の空間領域でリアルタイムに画像化するのは困難であった。このような課題に対して、本研究ではピクセルを通過する血球の存在時間を画像化する手法を開発し、細胞活動と血流の同時画像化を可能とする手法を提案した。これらの研究成果については、日本機械学会やバイオレオロジー学会の年会において論文発表をおこなった。現在、提案手法の妥当性について追加の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2件の国際会議での論文発表を行い、3本の論文を投稿準備中である。研究の進捗はおおむね計画通りで、順調と判断される。また、実験小動物の運動計測システムや学習行動観察システムを設置しており、すでに予備データを得ている。よって、認知症への予防効果に関して実証実験が始められる段階である。引き続き、関連の医学研究機関と連携をとりながら、プロジェクトを遂行する。 資金面では、実験装置の購入費が当初よりも上乗せされたため、年度の途中で前倒し請求が必要になった。そのため、予備実験に早く取り掛かることができ、安定した実験が可能となった。 成果の公表においては、国内外の学会に積極的に発表を行うことができ、新たな共同研究の枠組みの構築につながった。 実施体制としては、これまでどおり本研究室の院生・学部生を中心に実験データの計測と画像解析のプログラミングに分かれて、並行して研究を進めていく予定である。年度の更新に伴い、メンバーの変更は生じたものの研究手法の引継ぎはスムーズに行われており、今後の実施体制に変更はない。
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今後の研究の推進方策 |
成体脳における血管新生メカニズムについて、引き続き細胞標的を絞ったin vivoの実験と薬理実験を重ねる。本研究成果については、今年度9月にカルガリーで開催される世界微小循環学会において論文発表を行う準備を進めている。成果の発表後は、速やかにトップジャーナルへの論文投稿を予定している。 また、運動負荷による脳神経血管ユニットの構造変化、あるいは脳機能への影響について、すでに得られたデータの再現性について検討実験を重ねる。本研究プロジェクトに関連して、ヒトの実験データと比較を行い、動物モデルの限界とヒトとの共通点についてまとめる予定である。本研究成果は、本年度12月に郡山で開催されるバイオエンジニアリング講演会において論文発表を計画している。 一方、全身性の脳血流の増強実験に加えて、脳局所に継続的な刺激を賦活した際の同様に脳神経血管ユニットの可塑的変化と脳機能への影響について検討を行う予定である。こちらも当初の計画通りに本研究室での実験システムの設置が進んでおり、すでに脳血流や脳血管形態の変化について予備的なデータが得られている。そこで、本年度はさらに実験プロトコルと研究標的を絞り、解析を進めていく。 実験体制としては、当初の予定通りの研究規模で順調に進んでいる。年度の更新に伴い、研究プロジェクトを担当する大学院生や学部生に変更が生じてはいるが、それぞれのテーマの引継ぎは円滑に行われており、研究の進展への影響は軽微である。また年度内においてそれぞれの成果がまとまってきているため、今後は論文投稿に向けた最終データの確認と論文の執筆がメインとなる。今年度の資金計画としては、実験システムの設置費用が予想を上回ったため、やや不足気味である。したがって、プロジェクトの最終年度として次期の大型プロジェクトに発展継続できるように、外部資金への申請を積極的に行っていく予定である。
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