研究課題
本研究では、精神疾患を恒常性維持機構の破綻としてとらえ、精神疾患の動物モデルおよびバイオインフォマティクス的手法を活用し、精神疾患の中間表現型候補である非成熟歯状回の分子メカニズムの解明、さらにその治療法として成熟度を正常化させる手法の開発を行うことを目的として研究を実施した。本年度は非成熟歯状回の分子メカニズムの検討のためバイオインフォマティクス的な解析を主に行った。具体的には申請者らが同定したShn-2 欠損マウスの脳サンプルによる遺伝子発現データおよび統合失調症の死後脳の遺伝子発現データを元としてそれらに類似している遺伝子発現データを探索した。特に何らかの遺伝子を機能不全にさせたときに起こる遺伝子発現変化がこれらのものと共通性が高くなるような遺伝子の探索を行った。この解析により、欠損させたときに精神疾患モデルマウスの海馬歯状回と類似した遺伝子発現変化をもたらしうる遺伝子の候補を選定した。候補として複数の遺伝子ファミリーが同定され、それらの遺伝子の欠損が引き起こす遺伝子変化がやはり統合失調症患者の死後脳の遺伝子発現変化と類似していることも確認した。また申請者らは本年度にゲノム編集技術による遺伝子改変マウスの作成のについても立ち上げており、ゲノム編集技術を用いてその遺伝子ファミリーのうち脳で発現しているサブタイプを欠損したマウスの作成を開始した。来年度はこれらのマウスで行動表現型および海馬歯状回の成熟度を検討する。
2: おおむね順調に進展している
本年度予定していたバイオインフォマティクス的解析は順調に進み、非成熟歯状回をもたらし、また統合失調症様の遺伝子発現を引き起こす鍵となりうる遺伝子ファミリーを同定した。また、これらのデータから脳で発現する遺伝子サブタイプを同定し、これらの遺伝子欠損マウスの作成に取りかかっている。これらのマウスの解析については来年度に成果が期待できる。本研究は現在のところおおむね順調に進展しているといえる。
本年度に実施した in silico 解析に基づき、ゲノム編集技術により遺伝子欠損マウスを作成、そのモデルで行動や歯状回神経細胞の成熟度がどう変化するのかを解析する。これらの遺伝子改変マウスでも統合失調症の行動異常や遺伝子発現変化等が見られるのであればそれらの遺伝子は恒常性維持の要となりうる遺伝子であり、治療法のターゲットとなる可能性もある。
本年度は in silico での解析が済み次第、ノックアウトマウスをゲノム編集技術によりマウスを作製し、すぐにノックアウトが確認できれば大規模な交配を行い、次年度に予定されていた実験の一部を行う可能性があった。そのためマウスの繁殖飼育にかかる費用について余裕を持って計上していた。研究の進展は当初の予定通り進んでおり、年度中に大規模な繁殖は行わないため、そのために計上していた予算は次年度に使用することとなった。
本年度予算の次年度使用額については、次年度の予算と合わせてマウスの大規模な繁殖にもちいる消耗品に用いる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件)
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