研究課題
本研究では、精神疾患を恒常性維持機構の破綻としてとらえ、精神疾患の動物モデルおよびバイオインフォマティクス的手法を活用し、精神疾患の中間表現型候補である非成熟歯状回の分子メカニズムの解明、さらにその治療法として成熟度を正常化させる手法の開発を行うことを目的として研究を実施した。本年度は新たな精神疾患モデルマウスの開発に向けて、ゲノム編集技術による遺伝子欠損マウス系統の作出を行った。前年度にバイオインフォマティクス的な解析を行うことで、欠損させたときに精神疾患モデルマウスの海馬歯状回と類似した遺伝子発現変化をもたらしうるような遺伝子の候補をいくつか選定した。本年度はそれらの遺伝子のうちの複数の遺伝子について、ゲノム編集技術を用いて欠損マウスの作出を行った。マウス作出では、神経科学研究で最も一般的に使われているC57BL/6Jの受精卵を用いてゲノム編集による目的遺伝子の欠損を試み、産まれてきたマウスに対してゲノム配列を確認したところ、目的遺伝子に変異が導入された系統を複数ライン確立できたことが分かった。得られたマウスの配列情報から遺伝子欠損になっていそうな個体を選抜し、野生型のC57BL/6Jマウスと交配し、ヘテロ欠損マウスを得ている。来年度はこれらのマウスを用いてヘテロ欠損マウスを増やし、さらにヘテロ欠損同士の掛け合わせによりホモ欠損マウスと野生型リターメートを得て、行動表現型および海馬歯状回の成熟度を検討する。
2: おおむね順調に進展している
昨年度実施したバイオインフォマティクス的解析で、非成熟歯状回をもたらし、また統合失調症様の遺伝子発現を引き起こす鍵となりうる遺伝子を複数同定した。本年度は予定通りこれらのうち複数について遺伝子欠損マウスの作出を行った。これらのマウスの解析については来年度以降に成果が期待できる。本研究は現在のところおおむね順調に進展しているといえる。
本年度にゲノム編集技術によって遺伝子欠損マウス作成したが、今後はそのマウスについて行動や歯状回神経細胞の成熟度がどう変化するのかを解析する。これらの遺伝子改変マウスでも統合失調症の行動異常や遺伝子発現変化等が見られるのであればそれらの遺伝子は恒常性維持の要となりうる遺伝子であり、治療法のターゲットとなる可能性もある。
(理由)本年度は遺伝子欠損マウスをゲノム編集技術により複数作製したが、ノックアウトの系統が多数確認できればそれぞれで大規模な交配を行い、次年度に予定されていた実験の一部を行う可能性があった。そのためマウスの繁殖飼育にかかる費用について余裕を持って計上していた。研究の進展は当初の予定通り進んでおり、年度中に大規模な繁殖は行わくなっため、そのために計上していた予算は次年度に使用することとなった。(使用計画)本年度予算の次年度使用額については、次年度の予算と合わせてマウスの大規模な繁殖にもちいる消耗品に用いる。
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IBRO Reports
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