研究課題
健康な脳には、様々な外的撹乱に対する恒常性維持機構があるが、うつ病を始めとする精神疾患では、この機構が遺伝的脆弱性と環境的ストレスの相互作用により破綻した状態にあると考えられる。申請者らにより海馬歯状回の神経細胞の成熟度が様々な遺伝・環境要因によって双方向性に変化することが明らかになってきている。この成熟度変化は、海馬における恒常性維持機構の一つであり、個体レベルでの恒常性維持機構に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究では、精神疾患を恒常性維持機構の破綻としてとらえ、精神疾患動物モデルおよび光遺伝学・薬理遺伝学の手法を活用し、精神疾患の中間表現型候補である非成熟歯状回の分子メカニズムの解明、さらにその治療法として成熟度を正常化させる手法の開発を行うことを目的とする。歯状回に特異的にチャネルロドプシンを発現させたマウスにおいて光遺伝学は一過性の過活動を引き起こした。さらに刺激を繰り返すことによりにベースレベルで活動性が亢進されていく傾向が見られた。これは海馬歯状回に異常をもつ精神疾患モデルマウスの行動異常と方向性が一致している。また、光依存的に活性化する酵素をアデノ随伴ウィルスの接種により海馬歯状回特異的に発現させたマウスについて、光刺激を繰り返してその行動特性を網羅的行動テストバッテリーを用いて解析したところ一部の学習課題において成績が向上していた。この酵素の活性化は記憶の固定化に促進的な役割を果たしていると示唆される。この酵素をターゲットとして認知症などの記憶障害の治療法の開発が期待される。
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