研究課題/領域番号 |
16K01949
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
石橋 智子 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (50453808)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パラノーダルジャンクション / ミエリン / プルキンエ細胞軸索 |
研究実績の概要 |
有髄神経軸索ランビエ絞輪部両隣のパラノード部分で軸索と髄鞘が接し、髄鞘-軸索間結合paranodal axo-glial junction (AGJ)を形成する。AGJの軸索恒常性維持における役割、特にカルシウム調節に関与している分子IP3R1やERの軸索内局在をどのように制御しているのか明らかにする目的で、AGJ形成不全マウスCST欠損マウス(CSTko)を用い、以下の結果を明らかにした。 CSTkoプルキンエ細胞には特徴的な軸索腫脹が認められるが、この腫脹の原因がIP3誘導性カルシウムチャネルであるIP3R1の限局的な集積が引き金になっている可能性があり、IP3R1がなければ軸索腫脹は生じないのではないかと推測された。CST+/-マウスとIP3R1+/-マウスの交配より得たCST-/-/IP3R1+/-マウス小脳を解析した結果、プルキンエ細胞軸索の腫脹数がCST-/-/IP3R1+/+マウスと比較して有意に減少し、腫脹の大きさも小さくなっていた。IP3R1がAGJ形成不全軸索の腫脹の引き金になっている可能性が強く示唆された。 IP3R1はER膜の中でも、ミトコンドリアと近接する小胞体領域mitochondria-associated ER membrane (MAM)に豊富に存在し、MAM領域でミトコンドリア外膜にあるvoltage-dependent anion channel (VDAC)とGrp75を介して複合体を形成している。CSTkoプルキンエ軸索のIP3R1陽性腫脹部位にはVDACおよびGrp75が共局在している所見が認められ、また電子顕微鏡解析より、軸索腫脹部位にMAMの構造が認められた。したがって、AGJ形成が軸索のERのみならずMAM構造あるいは分布に影響を及ぼしていることが示唆され、AGJの軸索機能恒常性機序を理解する手掛かりになったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していたCST/IP3R1double koマウスの解析は交配も順調であり、AGJ形成不全プルキンエ細胞軸索腫脹の原因がIP3R1の軸索局所への集積が引き金になっていることを明らかにすることができた。またAGJ形成が軸索のIP3R1の局在、MAMに存在する分子の局在にどのように関与しているのか、免疫組織学的および形態学的解析を中心に知見を得ることができた。 しかしながら、CSTkoマウス小脳プルキンエ細胞軸索の腫脹部分のカルシウム濃度上昇を裏付けるカルシウムイメージングは進んでいない。原因として、軸索が非常に細く、小脳スライスを用いて調べることは困難であること、またスライス作製時に人口産物が生じ、正常マウススライスと区別がつかず、vivoの軸索異常を再現できないことなどが挙げられる。したがって、小脳分散培養を用いる必要があると考え準備をしている。現在のところ胎生13日齢と生後0~1日齢の小脳を混合培養することにより、効率よくプルキンエ細胞軸索に髄鞘形成できる培養系を確立できた。今後CSTkoマウス小脳を用いてvivoの軸索腫脹を再現できることを確認した後カルシウムイメージングの実験に用いる予定である。 髄鞘形成に伴う軸索IP3R1の局在を詳細に調べるために免疫電子顕微鏡解析を行ったが、小脳プルキンエ細胞軸索を長く観察できる視野を得ることが極めて困難であり期待する像を得ることが出来なかった。そのため超解像顕微鏡で軸索IP3R1の局在を調べ、興味深い結果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
1.In vitro髄鞘培養系を用いた実験 胎生13日齢と生後0~1日齢小脳を混合培養することにより、効率よく髄鞘形成を再現できる系を確立した。この系を用いて髄鞘形成に伴う軸索IP3R1の局在変化、ERの分布の変化、およびERとミトコンドリアが近接するMAMに存在する分子の局在を詳細に観察する。さらに、CSTkoマウス小脳を用いて培養を行い軸索腫脹が再現可能であるか検討する。可能であれば、腫脹部分のカルシウム濃度が上昇しているのかイメージングにより調べる。イメージングによりカルシウム濃度が上昇していれば、AGJ形成不全により軸索内のカルシウム恒常性維持が変化したことが証明できる。カルシウム濃度の上昇が認められなければ、AGJ形成不全によりカルシウム濃度の変化なしに、軸索局所のIP3シグナリングが活性化している可能性が考えられるため、IP3を測定する。 2. AGJと軸索内MAMの構造解析 AGJ形成不全を呈するCSTkoマウス小脳プルキンエ細胞軸索の腫脹部分には、ERとミトコンドリアが近接するMAM様の構造が高頻度に観察された。これまでに、軸索内にMAMが存在するのか報告がない。MAMの研究はスクロース密度勾倍により精製したMAM画分を生化学的に解析する、あるいは電子顕微鏡でMAMの構造を調べるという方法が一般的に用いられる。プルキンエ細胞の細胞体や樹状突起を含まず、有髄神経軸索のみを精製することは不可能であるので、電子顕微鏡を用いてMAMの構造を調べる。正常有髄軸索のMAMに注目した研究は今のところなく、AGJ形成にともなう軸索MAM構造の変化を調べることは、AGJが軸索恒常性維持にどのように関与しているのか理解する上で重要な知見となると思われる。
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