研究期間全体を通じて、発達性吃音者を対象として、経頭蓋電流刺激(transcranial direct current stimulation: 以下tDCS)による流暢性発話導出の脳内機序に関する研究を行なった。tDCSの効果に特に重要なパラメータである、刺激部位(左右ブローカ野、ウェルニッケ野)と刺激極性(陽・陰極)の8通りの組み合わせについて、それぞれ文章音読時の吃音症状出現率を計算した。その結果、右ブローカ野相同領域付近を目標とした陰極刺激時において、コントロール(シャム刺激)条件と比較し、非流暢性発話頻度の有意な低下を認めた。最終年度には、この研究成果をまとめ、国際専門誌に掲載が受理された。吃音の脳内機序に関する従来の仮説として、左右半球の発話関連領域の活動のアンバランスが原因である可能性が示唆されていたが、本研究の成果はその仮説と矛盾せず、非(低)侵襲脳刺激法を用いた吃音の新しい介入方法の開発につながる可能性がある。 また、最終年度において、非吃音者を対象として、変調聴覚フィードバックの一種である遅延聴覚フィードバックにより導出される非流暢性発話の脳内機序を解明するため、言語関連領域を刺激目標としたtDCS研究を実施した。その結果、左ブローカ野周辺を刺激対象とした条件において、コントロール(シャム刺激)条件と比較して、構音エラーなど、非流暢性発話の特徴が有意に減少していた。この結果から、非吃音者では、遅延聴覚フィードバックにより生じる左ブローカ野の活動異常が、非流暢性発話に寄与している可能性が考えられた。吃音者、非吃音者を対象としたこれらのtDCS研究により、非流暢性発話に関与する複数の脳内メカニズムが存在する可能性が考えられた。
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