シナプス伝達を制御するSTX1Aを欠損させたマウス(STX1A KO)では、モノアミン分泌の障害がみられる。このマウスは、社会認知機能の障害を呈した。ヒト遺伝子解析の結果、STX1Aが自閉性疾患に関与することが明らかになった。そこで、STX1A KOをモデル動物として、自閉性疾患などでみられる社会行動の障害の機序について解析を行った。薬理学的な解析の結果、STX1A KOでの社会認知機能の障害は、主にドパミン(DA)分泌の低下が関わることを明らかにした。さらに、DAによる社会行動の制御に、神経ペプチドの一種であるオキシトシン(OXT)が関与することを見出した。これらの知見をもとに、野生型マウスを用いたDA分泌、OXT分泌の解析を行った。その結果、中枢神経にけるDA分泌はOXTに誘発されうることが明らかとなり、またOXT分泌もDAにより誘発されることがわかった。このDAとOXTの相互作用の異常が、STX1A KOにおける社会認知機能の障害を引き起こしていることが示唆された。興味深いことにこの相互作用は、物体の認知にはほとんど影響を与えておらず、社会認知機能に特異的に働いていることがわかった。またOXTによるDA分泌の制御について解析したところ、中枢神経に発現するOXT受容体とOXTと相同性の高いバソプレシン(VP)の受容体のV1a受容体が関わることがわかった。薬理学的解析により、これらの受容体は相乗的に働いていることがわかった。そこで、VPの作用についても検討を行った。その結果、VPもOXTと類似の作用は見られるものの、OXTほど社会認知機能およびDA分泌の促進効果は顕著でないことがわかった。
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