研究課題/領域番号 |
16K01955
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
榎本 一紀 玉川大学, 脳科学研究所, 特任助教 (10585904)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 霊長類 / 社会性 / 報酬 / 意思決定 / 学習 / 大脳基底核 / 大脳辺縁系 |
研究実績の概要 |
われわれ人間や多くの動物は相互依存的な社会関係のもとに生きている。集団のなかで適切な意思決定・行動選択を行って、コストを抑えて効率的に利益を獲得するためには、信頼できる他者の行動を観察して必要な情報を抽出し、自己の行動に生かすことが必要である。そのような社会的環境における学習や意思決定・行動に関わる脳神経メカニズムを明らかにすることは、神経科学のみならず、社会学や精神医学の分野からも期待されている。 本研究は、社会的状況における他者の選択行動や報酬獲得が、どのように大脳辺縁系および大脳基底核系の神経活動に影響するのかを調べることを目的とし、複数頭のニホンザルを用いて、協調行動が必要な課題を学習させ、課題遂行中の行動データや神経活動を記録・解析する。本年度は、3頭のニホンザルに報酬獲得のための行動課題を学習させ、課題遂行中における各種行動データの記録・解析を行った。行動課題では、2頭の動物がLED内蔵ボタンが配置されたパネルを挟んで座り、それぞれ点灯したボタンを押す。お互いが一定時間のボタン押しを保持できると、口元のパイプから報酬である水が得られる。報酬獲得までのステップ数(ボタン押し回数)は1ブロック(20-30試行)ごとに異なっており、同じ量の報酬を得るための自分と相手のコストをブロック毎にコントロールした。 課題遂行中に記録した眼球運動を調べたところ、動物は自分が押すボタンの他に、相手が押したボタン位置や、報酬到達時の相手の顔周辺(パイプなめ行動)をよく見ていることが分かった。また、ボタン押しへの反応時間は、自分のステップ数にかかわらず、相手のステップ数が0の時(相手はボタン押しの必要がない時)に最も大きかった。この結果は、報酬を得るために必要なコストに不平等性があると、サルはそれを検知し、行動や動機づけに反映していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は行動データ、神経活動操作・記録のための実験機器の準備を行い、動物に行動課題を学習させた。課題遂行中の動物から記録した眼球運動やパイプなめ行動などのデータから、動物は自分自身の行動にのみ注目しているのではなく、他者の行動や報酬摂取行動、報酬獲得にかかるコストなどにも注意を払っていることを示唆する結果が得られており、社会的状況において動物が採用している戦略を良く記述するための学習モデルの推定に役立つと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針については、今年度の実績に基づき、引き続き推進してゆく予定である。3頭の動物から行動学的データが記録できるよう処置を行い、その後、神経細胞活動記録を開始する。また、神経回路選択的な情報表現の解明、経路選択的な神経活動操作のための光遺伝学・化学遺伝学的手法を用いた実験の実施が現実的になってきたので、そのための準備も平行して行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はおもに行動データ・神経活動の記録・解析に必要な少額の物品を購入し、動物の行動実験を進めていたので、必要な諸経費を少なく抑えられた。次年度移行は光遺伝学・化学遺伝学的手法を用いた実験を計画しており、ウイルス注入などを行うための実験機器や解析装置、薬品などが必要となり、経費を集中的に使うことが予測されるので、研究費の繰り越しが望ましい。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、2頭以上の動物に外科的処置を行い、頭部に固定装置と神経活動記録・ウイルス注入用チャンバーを取り付ける予定である。そのための薬品や実験機器、効率よく手術を行うための器具が必要となる。また、複数頭から同時に神経活動を記録し、解析するための機器なども購入することを計画している。
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