研究課題/領域番号 |
16K01963
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
緒方 勝也 九州大学, 医学研究院, 講師 (50380613)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 運動誘発電位 / 脳波 / 時間周波数分析 / 実時間解析 / 経頭蓋磁気刺激 |
研究実績の概要 |
一次運動野 (M1)への経頭蓋磁気刺激(TMS)で生じる運動誘発電位(MEP)振幅変動が生じる神経基盤や、条件を統制する要員などは未解明の部分が多い。本研究ではTMS直前の脳波を計測し、刺激直前の脳の状態がMEP振幅に影響する条件を検討した。 TMSを5-7秒毎に行いMEP計測中脳波を計測した。MEPは右手内筋より記録し、TMSは左M1ホットスポットより行った。脳波はTMS直前のデータを切り出し、ウェーブレット変換により時間周波数解析を行った。MEP振幅が高かった試行とMEP振幅が低かった試行を分けMEP振幅が高かった試行と低かった試行の間でパワー値の差が観察されるかを開眼条件、閉眼条件で評価した。 結果として、左M1ホットスポット近傍のC3から左前頭部に広がる範囲でMEP振幅が高い試行のパワー値が高い結果が得られた。周波数は10-16 Hzのα-低β帯域で、200 ms-0msの時間帯で差が観察された。閉眼条件でも同様の傾向であったが、統計学的有意差は得られなかった。 次に開眼条件に限定し、刺激強度を1mVのMEP振幅が得られる強度(HI)と安静時閾値(LO)とで再度検討した。HI条件ではやはりC3を含む範囲でMEP振幅が高い試行のα-低β帯域のパワー値が高い結果が得られたが、LO条件では有意な差が観察されなかった。 次に上記結果を踏まえてC3の脳波を計測し、実時間で周波数分析を行い、α帯域、もしくはβ帯域のパワー値が高い時、低い時にTMSを行い、それぞれの条件でMEP振幅が高く、あるいは低くなるかを評価した。結果としてα帯域では前の実験結果に合致しパワー値の高い時は低い時よりMEP振幅が高くなった。一方β帯域ではパワー値による振幅差は観察されなかった。 上記結果から、左中心部におけるα~低β帯域のパワー値が高い時M1の興奮性が増し、MEP振幅が高くなることが考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度はTMSにおける脳波、MEPの同時記録の環境を整え、安定した計測を実施できるように改善を行った。TMSは現在まで利用している機器を用いているがより安定して保持ができるようTMSコイルにとりつける補助具を開発した。これにより検者の疲労を緩和し長時間の刺激の際の安定向上を図ることができた。また被験者の頭位保持のサポーターも追加し、計測時の被験者の体動を抑制度が改善した。脳波では記録時過去にはテープでTMSコイルと電極間の絶縁を行っていたが、しばしば絶縁が不十分で交流アーチファクトが重畳することがあった。28年度は記録の安定のため頭部を覆うテープの代替となるラップを導入し、頭部全体を覆うことが可能となった。これにより絶縁度が増し、記録中のアーチファクト軽減ができた。またラップを用いることで電極の乾燥が抑えられ、これもアーチファクトの軽減に寄与している。ラップの導入はまた透明な素材で、電極の状態やコイルと頭蓋の位置の確認が容易となり、安定した刺激の補助となっている。28年度の結果は運動誘発電位の大きな変動が安静時に生じることが確認され、TMS直前の脳波でMEP振幅の予測の可能性が示された。 29年度は前年の結果を踏まえ開閉眼条件で18名のデータを取得し、MEP振幅が高い試行において、C3を含む左前頭中心部でα-低β帯域のパワー値が高い結果が統計学的有意差を持って得られた。これは開眼では観察されたが、閉眼では傾向はあるものの有意差は生じず、開閉眼で影響されることが示唆された。また刺激強度にも影響されることも観察できた。 また上記結果を踏まえて脳波を計測しながら実時間で解析するシステムを開発し、α帯域のパワー値が高い時にTMSを行うとMEP振幅が高くなることが観察された。
|
今後の研究の推進方策 |
30年度は一つはTMSコイルの向きをPA、APで変化させて比較検討する。70mmコイルのみを用いてコイルの向きを通常の向き(PA)と180°回転させた向き(AP)で比較検討する。PAの条件ではTMSコイルのハンドルが矢状線から外側45°後方を向け、皮質内電流が後ろ(P)から前(A)に向かう。この条件ではI1波が優先的に誘導されるとされる。一方、APではI3波が優先的に誘導される。PAではこれまでの結果と同様C3電極のα-βパワー値が低いときにMEPが誘発されやすいであろう。一方APでは、脳波パワー値が高いときにI3波が誘導されやすいという仮説が正しければ、脳波パワー値が高い試行でMEPが誘発されやすくなると予想される。 またTMSタイミングの予想がMEP振幅に与える影響を検討する。TMSのタイミングを被験者に報告させ、実際のTMS時刻からのずれの大きさとMEP振幅との関連を評価する。この時脳波-MEP連関についても計測し解析、検討する。TMSを5-7秒の間隔でランダムに繰り返し、被験者はあと3秒でTMSが来ると予想した時に左手でボタン押しをするように指示を与える。TMSのタイミングはコンピュータでランダムに決めるため、実際にはTMS時刻を正確には予測できず、誤差も試行毎にばらつきが生じる。試行毎にボタン押しの時刻、TMSの時刻、MEPを計測し、TMSの時刻と予想時刻の差、すなわち被験者が予想したTMS時刻からのずれとMEP振幅の関係、脳波パワー値を評価する。また脳波解析等技術的には改善してきていいるが、TMS後の脳波変化についても解析法の検討を進めていく。 脳波の実時間解析はC3のα帯域でパワー値の高低によるMEP振幅の差を見出すことができた。今年度はこれが脳波位相で更に詳細にMEP振幅の制御ができるか精密な解析と制御を進めていく。
|