一次運動野 (M1)への経頭蓋磁気刺激(TMS)で生じる運動誘発電位(MEP)振幅変動が生じる神経基盤や、条件を統制する要員などは未解明の部分が多い。本研究ではTMS直前の脳波を計測し、刺激直前の脳の状態がMEP振幅に影響する条件を検討した。 TMSを5-7秒毎に行いMEP計測中脳波を計測した。MEPは右手内筋より記録し、TMSは左M1ホットスポットより行った。脳波はTMS直前のデータを切り出し、ウェーブレット変換により時間周波数解析を行った。MEP振幅が高かった試行とMEP振幅が低かった試行を分けMEP振幅が高かった試行と低かった試行の間でパワー値の差が観察されるかを開眼条件、閉眼条件で評価した。 結果として、左M1ホットスポット近傍のC3から左前頭部に広がる範囲でMEP振幅が高い試行のパワー値が高い結果が得られた。周波数は10-16 Hzのα-低β帯域で、200 ms-0msの時間帯で差が観察された。閉眼条件では統計学的有意差は得られなかった。 次に開眼条件に限定し、刺激強度を1mVのMEP振幅が得られる強度(HI)と安静時閾値(LO)とで再度検討した。HI条件ではやはりC3を含む範囲でMEP振幅が高い試行のα-低β帯域のパワー値が高い結果が得られたが、LO条件では有意な差が観察されなかった。 次に上記結果を踏まえてC3の脳波を計測し、実時間で周波数分析を行い、α帯域、もしくはβ帯域のパワー値が高い時、低い時にTMSを行い、それぞれの条件でMEP振幅が高く、あるいは低くなるかを評価した。結果としてα帯域では前の実験結果に合致しパワー値の高い時は低い時より有意にMEP振幅が高くなった。一方β帯域ではパワー値による振幅差は観察されなかった。上記結果から、左中心部におけるα~低β帯域のパワー値が高い時運動感覚領域の興奮性が増し、MEP振幅が高くなることが考えられた。
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