本研究の目的はV1野局所細胞集団の空間周波数選択性やその時間ダイナミクスの精密計測を行い、空間周波数情報処理の基盤にある神経回路、情報表現を探ることである。手法として、研究計画段階では、電極点間隔が10ミクロン程度の高密度多点電極アレイを用いて、狭い範囲(0.3ミリ四方程度)の微細構造を調べることを考えていた。しかし低密度電極を用いて2ミリ四方範囲の6層全体から細胞記録を行い、層構造やコラムレベルでの構造を調べるほうが、上記の問題を解明するうえでより効果的であるとその後考えるに至った。そこで、最終的に、すでにデータベースとして所有していた低密度多点電極アレイで記録したV1野細胞活動データを利用し、これを詳細に分析することを行った。 本研究の結果、以下の2つのことを解明した。第一に、様々なチューニングダイナミクスを示す細胞が局所領域に集まっており、結果として、各周波数コラムの平均的なダイナミクスは、皮質全体で一様であった。この構造は空間周波数の安定な情報表現につながっていると考えられる。第二に、空間周波数チューニングダイナミクスは入力層ですでに完成していることから、このダイナミクスの形成は、主にフィードフォワード回路および皮質入力層レベルでの処理が関与していると考えられる。現在、この成果を論文投稿中である。 また刺激のコントラストに注目した解析を行った結果、空間周波数チューニングダイナミクスはコントラストに大きく依存することを見出した。この結果は、V1野の多くのチューニング特性がコントラストに依存しない(たとえば方位チューニング)ことと相反しており、これまでと異なる新しいV1野の特徴抽出メカニズムの発見へとつながる可能性があるので、今後の研究につなげていきたい。この成果は、今年度の日本神経科学や北米神経科学学会で発表した。
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