研究課題/領域番号 |
16K01968
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
佐野 裕美 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (00363755)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大脳基底核 / 線条体 / 随意運動 / 神経活動 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
大脳基底核の入力核の一つである線条体は、大脳皮質からグルタミン酸作動性ニューロン、中脳からドパミン作動性ニューロンの入力を受け、随意運動の制御に重要な領域だと考えられている。線条体には黒質網様部へ投射する線条体-黒質投射ニューロンと淡蒼球外節へ投射する線条体-淡蒼球投射ニューロンの二種類の投射ニューロンが存在する。線条体-黒質投射ニューロンにはドパミンD1受容体、線条体-淡蒼球投射ニューロンにはドパミンD2受容体が発現しており、これらの受容体の下流にあるシグナル伝達物質が線条体の神経活動に影響を与え、運動の制御に重要であると考えられている。しかし、実際にはシグナル伝達物質、神経活動、運動制御の三者の関係が明らかになっているわけではない。 この研究では、線条体-黒質投射ニューロンにおいて、ドパミンあるいはグルタミン酸の刺激により活性化するprotein kinase A (PKA)に注目し、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、マウスの線条体-黒質投射ニューロン特異的にPKAのdominant active (DA)を発現させ、マウス個体において神経活動に対する影響を調べた。 大脳基底核の神経活動は麻酔薬の影響を受けやすいことが一般的に知られており、覚醒下でマウスをステレオ装置に保定して、線条体-黒質投射ニューロンの投射先である黒質網様部において細胞外記録を行った。黒質網様部における自発発火に加え、大脳皮質運動野に刺激電極を留置し、大脳皮質運動野を電気刺激したときの応答を記録した。その結果、黒質網様部における自発発火頻度や自発発火パターンには影響が認められなかった。大脳皮質運動野を刺激すると、コントロールマウスでは一過性の三相性の応答が認められる。PKAのDAを発現させたマウスでは、コントロールマウスと同様の三相性の応答が認められたものの、応答の持続時間や潜時に有意差が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画では、PKAやMAPK/ERKキナーゼ(MEK)のDAあるいはdominant negative (DN)をマウスの線条体-黒質投射ニューロンに特異的に発現させ、これらのマウスを覚醒下でステレオ装置に保定して、大脳基底核を構成する神経核から細胞外記録を行い、神経活動に対する影響を解析することを予定していた。 実際には、PKAやMEKのDAを線条体-黒質投射ニューロンに特異的に発現させ、これらのマウスを覚醒下でステレオ装置に保定して黒質網様部から神経活動を記録した。黒質網様部における自発発火頻度や自発発火パターンは、PKAのDAを発現させた場合も、MEKのDAを発現させた場合も、有意な影響は認められなかった。そこで、次に大脳皮質運動野に刺激電極を留置し、大脳皮質運動野を電気刺激したときの応答を記録した。最初に数匹のマウスから応答を記録したところ、MEKのDAを発現させたマウスでは、応答に変化が生じている傾向が認められなかった。しかし、PKAのDAを発現させたマウスでは、応答に変化が生じている傾向が認められた。そのため、PKAのDAを発現させたマウスの神経活動を優先的に記録することにした。その結果、PKAのDAを発現させたマウスではコントロールマウスと同様の三相性の応答が認められたものの、応答の持続時間や潜時が有意に変化していた。 以上のように、おおむね当初の計画通りに実験が進んでおり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の通り、平成30年度は引き続き、線条体-黒質投射ニューロンにPKAあるいはMEKのDAを発現させたマウスにおいて、黒質網様部に加え、淡蒼球外節や淡蒼球内節などの大脳基底核を構成する他の神経核から神経活動の記録を行う予定である。 一方で、線条体-黒質投射ニューロンに発現させたPKAあるいはMEKのDAが運動機能の制御に与える影響を解析する予定である。運動機能の解析には、オープンフィールドにおける自発運動の計測、梁歩行試験による運動協調性の計測、ローターロッドを用いた運動学習の計測を行う予定である。 平成29年度より多くのマウスを使う予定であるため、既に実験に十分なマウスの飼育スペースは確保している。また、使用するアデノ随伴ウイルスベクターは研究協力者に作製を依頼しており、実験に必要なアデノ随伴ウイルスベクターの提供を受けることができる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外学会において発表することを予定していたが、動物実験の都合上、実験に集中してデータを取ることを優先した方が実験計画に沿った遂行となると判断したため、海外出張を見送った。平成30年度は海外学会で発表することを予定している。
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