研究課題/領域番号 |
16K01973
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 徹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30227839)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フィリピン / 弱者 / 社会ネットワーク |
研究実績の概要 |
本年度は,主として,2008年から3期10年間にわたり村会議員を務め終えた,調査地の居住者クリスティーナ・パンギリナン氏の活動に着目し,彼女の活動をめぐる社会ネットワークを中心に聞き取りを行った。彼女は,当該不法占拠地区居住者として,はじめて村会議員に当選した人物である。彼女が,居住地外部の人々との関係を如何にして築き上げてきたか,また,この間の地域の社会問題の主要な変遷は何処にあるのかについて集中的な聞き取りを実施した。 この結果,カトリック教会帰属のグループ活動の重要性があらためて確認されると同時に,2016年度で発見された健康問題(肥満の問題の先鋭化)の実態が,居住者間でも共有されつつあることが確認された。肥満問題自体は,de Janvry and Sadoulet(2016)の結果と対応するところであるが,人々がその事実をある程度まで認識し,貧困層としての戦略に新たな対応が模索されつつあることがあきらかになった点に意義がある。インタビュー結果から,その原因は,1990年代以降の所得増による食生活の変化にあるというわれわれの仮説を一部の居住者たちが認識しているという新しい事実もまた,同様に確認された。この問題に対する「弱者」の対応の一つとして現在,われわれは社会ネットワークに裏打ちされた有機農産物の小地域小グループの経済圏の活用に注目している。 この間の研究成果としては,中間報告にとどまっているが,これまでの調査データをまとめた速報値に基づきmimeo を作成し,フィリピン国立大学ロス・バニョス校とフィリピン研究の国際学会Philippine Studies Conferenceにおいて,それぞれ報告を行った。また、それらを発展させた詳細な報告については,2019年度中に,雑誌『東洋文化』に発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中間報告はmimeo の論文を,国際学会で発表し,来年度中に論文を公刊することになったとはいえ,取りまとめそのもののは,やや遅れが生じている。もっとも,副産物として,居住者の認識の変化についての新しい事実発見があり,その意味では,おおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
クリスティーナ・パンギリナン氏への聞き取りに集中したため,本年度は十分に実施することができなった補足データ収集によるデータの補完に努めつつ,引き続き取りまとめに集中したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しい事実発見をもたらしたクリスティーナ・パンギリナン氏への聞き取りに集中したため,本年度に予定していた補足データ収集によるデータの補完作業の実施が困難になったためである。この作業は次年度に繰り越し,さらに最終年度のとりまとめに集中したい。
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