研究課題/領域番号 |
16K01974
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
福島 康博 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20598908)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地域研究 / 東南アジア / イスラーム |
研究実績の概要 |
イスラームに基づく商品・サービスを生産する産業とその背景にあるイスラームの規格化について、島嶼部東南アジア諸国の状況を調査・研究する本研究課題において、3年目にあたる平成30年度は、これまでの研究成果として単著1本と論文1本を著すとともに、学会発表を1回行った。 単著は、『Q&A ハラールを知る101問:ムスリムおもてなしガイド』(総ページ数:246ページ。科研費への謝辞あり)と題し、本研究課題の主要な研究対象の一つである日本でインバウンド観光を行う外国人ムスリム観光客に焦点を当てて、彼ら・彼女らに対する日本の観光業者による接遇のあり方を示した一般向けの概説書である。観光に関連する産業、すなわち食品製造・加工業、飲食店、ホテル、土産物屋、観光施設などの関係者を主な読者とし、ムスリムに対する適切な接遇方法を具体的に示した。また、背景となるイスラームの教義や歴史、地域差とその原因などの分析を示した。このことにより、ビジネスのノウハウ本としてではなく、大学教育におけるイスラーム地域研究などの分野の教科書・概説書に資する内容とした。 他方、論文は「イスラームと金融」と題し、ハラール産業に関する論文集の一章として執筆した。同論文は、同じく本研究課題の研究対象の一つであるイスラーム金融に関し、東南アジアの金融史にイスラーム金融を位置づけて論じるとともに、近年のイスラーム金融の動向を論じた。また、イスラーム金融がイスラームを規格としてどのように制度設計されているのかを明らかにするとともに、ムスリムの日常にイスラーム金融がどのように関連しているか、また非イスラーム諸国との関係も論じた。 学会発表は、マレーシアのハラール食品産業法に関する報告に対するコメントという形で行った。これは、アジア政経学会の運営事務局から指名を受けて行ったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の3年目となった平成30年度は、平成29年度の「今後の研究の推進方策」に基づき、マレーシアとインドネシアを対象とする現地調査を実施した。 まずマレーシアでは、主にクアラルンプールで調査活動を行った。特に、ハラール産業の実務家と研究者の国際会議である世界ハラール会議(World Halal Conference)と、ハラール産業の見本市であるマレーシア国際ハラール・ショーケース(Malaysia International Halal Showcase)に参加・出席し、マレーシア内外におけるハラール産業の最新動向について、聞き取り調査や資料収集を行った。ハラール食品については、マレーシア国内企業による製造・消費だけでなく、東南アジア以外のイスラーム諸国への輸出を想定とする商品開発等も積極的に行われていた。またイスラーム金融においては、ビットコインやクラウドファンディングなどいわゆるフィンテックを用いた新しいサービスのあり方が模索されており、これらを示す資料収集や聞き取りを行った。 次にインドネシアでは、ジャカルタで調査研究を行った。平成29年度において当初の予定していたインドネシア調査が実施できなかった理由が、ハラール産業見本市にスケジュールが合わなかったためであったが、平成30年度はジャカルタで開催されたジャカルタ・シャリーア・ハラール・フェスティバル(Jakarta Syariah Halal Festival)に出席し、聞き取り調査を行えた。またジャカルタ市内においては、ハラール・レストランでの聞き取り調査を行った。中でも日本の大手レストランチェーン店によるインドネシア・ジャカルタへの進出がここ数年は非常に顕著であり、いずれもインドネシア国内のハラール認証を取得した上でビジネス展開を行っていることが、本調査で明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、平成30年度をもって3年間の研究期間を終了する予定であった。しかしながら、当初想定していなかった現地情勢の変化が生じたため、1年延長することとした。具体的な理由としては、インドネシアでハラール製品保証法が令和元年10月に施行されることになり、これに基づきハラール認証制度が、抜本的に見直されることになった。特に、現行ルールに基づいたハラール認証団体であるLPPOM-MUIの位置づけと認証の対象となる物品が、新法の施行によって大幅に変更される可能性が高い。ただ、現時点においても詳細がいまだ明らかになっていない部分も多い。そこで、インドネシアという消費者・生産者とも東南アジア最大規模の国のルール改定が、東南アジアをはじめハラール産業とイスラームの規格化に与える影響の大きさを鑑み、1年間の研究期間の延長を行うこととした。 上記のような経緯にあるため、本研究課題の4年目にあたる令和元年度はインドネシアとマレーシアの調査・研究を中心に行うこととする。まずインドネシアであるが、喫緊の課題として新法に基づくハラール認証制度の運用方法、およびそれに基づくハラール食品市場の変化を分析する。そのため、必要に応じてジャカルタを中心に、インドネシアでの現地調査を実施する。 他方、マレーシアについては、クアラルンプールを中心に現地調査を実施する。具体的には、ハラール産業に関する見本市や国際会議に出席する。特に9月に開催されるハラール産業のBtoC事業の産業展示会であるHALFEST、および観光産業の産業展示会であるMatta Fairに参加・出席し、聞き取り調査と資料収集を行う。 これら現地調査と並行して、日本国内においても資料収集や文献調査を進める。なお、上記以外の国にて本研究課題の目的に合致する趣旨の国際学術会議や産業展示会等が開催される場合は、そちらにも出席するものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由は以下の通りである。本研究課題は当初平成30年度までの3年間の計画であったが、調査対象地の一つであるインドネシアにおいて、令和元年10月よりハラール認証制度に関する新法が施行され、これに基づきハラール食品の運営方法やイスラームのあり方が大きく変化すると予想される。この点を鑑み、一年間研究を延長することとした。研究期間の延長によって生じる次年度の経費として、平成30年度の直接経費のうち、未使用額を次年度に使用することとする。 平成30年度に発生した残額の使用計画であるが、令和元年度の物品費と旅費に充当する。特に旅費に関しては、マレーシアおよびインドネシアでの現地調査を実施するために使用する。
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