アフリカにおける欧米や中国などによる鉱物資源の開発は、土地収奪や環境破壊、地域紛争など、多くの問題をひきおこしてきた。ケニア北西部のトゥルカナ地域では、2012年に石油が発見され、多国籍企業による探査・開発が進行している。本研究の目的は、この事業が地元社会に対してどのような影響をおよぼしているのかを解明することである。 地元民は、開発企業であるターロウ(Tullow)に対して両義的な感情をもち、その活動を支持すると同時に、様々な妨害行動をとっている。ターロウは、井戸掘りと水の供給、学校や病院の建設、奨学金の提供などの便宜を地元に供与し、また、地元企業は、多くの仕事をターロウから請け負い、地元民は現金稼得の機会を得ている。しかし地元民は、ターロウは事業内容を自分たちに十分に説明せず、雇用機会を提供していないし、また、環境を破壊・汚染していると考えている。さらに、この事業により立ち退きを強制された人びとが存在し、将来、さらに自分たちの土地が奪われることを懸念している。 ターロウは2018年6月に、原油をインド洋岸までトラック輸送し、国際的なマーケットに売却する準備を開始した。しかし地元民は、ターロウと中央政府に対する鬱積した不満を表明して、道路を封鎖してトラックの通行を阻止し、原油輸送は2カ月弱にわたって中断した。ケニアでは、原油生産から得られる利益配分をめぐる議論が数年間続いてきたが、最終的には、75%は中央政府、20%は地方政府、5%は地域共同体に配分されることになった。しかし地元民がこの配分をいつ受けられるのかは不明であり、その実現には多くの困難が予想されている。 本研究によって、石油開発企業と中央政府、地方政府、地元社会のあいだに、事業に関する相互理解が形成されないまま石油開発が進められたため、多くの問題が発生し、地元社会が不利益をこうむっている実態が明らかになった。
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