研究課題/領域番号 |
16K01980
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重田 眞義 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (80215962)
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研究分担者 |
座馬 耕一郎 長野県看護大学, 看護学部, 准教授 (50450234)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チンパンジー / 夜間睡眠 / 昼間睡眠 / 寝相 / 睡眠時間 / ヒト |
研究実績の概要 |
チンパンジーは昼行性であり、夜間に長時間の睡眠をとることが知られているが、その一方で昼間にも短時間の睡眠をとる。睡眠を1日の活動リズムとして把握するとともに、昼間と夜間の睡眠の関連を明らかにするために、昼夜の連続観察を試みた。 チンパンジーは夜間、樹上で枝葉を折り曲げて作成したベッドの上で睡眠をとる。ベッド上のチンパンジーは枝葉に隠されるため、夜間には視覚による調査を行うことができない。一方で野生チンパンジーは昼間だけでなく夜間にも発声することが知られており、聴覚による記録は昼夜を通して行うことができる。そこでチンパンジーが発声する音声をチンパンジーの活動の指標として用い、発声をもとにした昼夜の活動リズムについてデータ収集を行った。 ところで、毎晩のように眠ると考えられる夜間睡眠とは異なり、昼間の睡眠は毎日のように観察されるわけではない。昼間の睡眠時間は、採食行動や社会行動など、他の行動に費やす時間による制約を受けていると考えられ、それと同時に睡眠に適した環境条件の制約も受けると考えられる。昼間は太陽の動きとともに温度環境が大きくかわる時間帯であり、日光が当たるかどうかにより森林内には微細な温度環境の差異が生じる。本研究ではこの点に注目し、微細な環境の差異に対して、野生チンパンジーがどのように好適な睡眠場所を見出しているか調査を行った。野外では脳波計を用いた睡眠の記録を行うことができないため、同じ場所にとどまる行動である「休息」を観察し、休息に選ばれた場所と、その他の場所の温度環境を調査した。 夜間睡眠時の寝相について、国内で予備的な実験観察を実施した。ヒトとチンパンジーの夜間の寝相を四類型に分類し、それぞれの類型について寝相が維持される時間を積算した。また、類型間の遷移についても頻度と方向を記録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンザニア、マハレ山塊国立公園にて、野生チンパンジーが昼の休息時に選好する温度環境に関する調査と、昼夜の活動を連続して記録する試みをおこなった。 昼の休息時の温度環境は、サーモグラフィーを用いて、チンパンジーの休息場としている基盤(地面、枝、ベッド)付近の温度と、そこから見渡せる範囲内にある、その他の潜在的に休息場となる地面上や樹上の温度を測定した。2017年度の調査では、休息場としている基盤付近の温度は摂氏22.1度から28.6度の間にあることが分かった。一方で休息している場所から見渡せる範囲の地面上には、木陰で日の当たらない場所から日光が直接差し込む場所までさまざまな環境が存在し、基盤の温度は20.2度から52.6度まで大きな幅があった。また樹上の基盤の温度も20.7度から34.6度まで幅があった。休息場所の温度の範囲は、周囲の地面上や樹上の温度の範囲よりも狭かったことから、温度環境をひとつの基準として休息場所を選択しており、温度のより低い環境(22度以下)やより高い環境(29度以上)は好まないと考えられた。また、体表面の温度をサーモグラフィーで測定すると、平均31.2度であった。体表面の温度よりやや低めの温度環境を好み、その休息場所では体表面から基盤へと熱がゆるやかに放出されていると考えられた。 チンパンジーの昼夜の活動を、発声する音声を指標とし、録音機を用いた連続記録を試みた。チンパンジーは昼行性であり移動を伴う行動が多いため、日中は録音機を持った調査者が追跡しながら、その発声を記録した。夜間は移動を伴う活動が少ないため、チンパンジーがベッドを作成した場所の近くに録音機を設置した。 チンパンジーとの比較を視野に入れたヒトの寝相の類型分類と遷移の頻度を測定したのに加え、モーションキャプチャー分析によって睡眠時の体位の遷移時に実際に動いている体の部位を特定した。
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今後の研究の推進方策 |
野生動物は、日々の環境変動や昼夜の環境変動に対して、その環境の中にある微細な差異を知覚し、行動を変化させて生活している。そのような野生動物にとっての休息は、不動の体勢を長時間続ける行動であり、好適ではない環境下ではとることが困難な行動だと考えられる。 2017年度の観察結果から、野生チンパンジーが環境の温度の微細な差異を知覚し、より好適な温度環境で休息を得ていることが示唆された。このことは、こういった適温の環境が得られない状況では、十分な休息が得られないことを示唆する。たとえばサバンナに生息するチンパンジーでは、高温になる日中の活動を避け、夜間の活動が増加していることが示されている。それでは日々の活動の中で、日中の休息と夜間の活動(あるいは日中の活動と夜間の休息)はどれほどの影響を及ぼしあっているだろうか。それを解明するために、今後は、これまでに収集した日中の活動と夜間の音声の連続データの解析を行う。収集したデータには、雨により環境の温度が低く抑えられた期間や、雨が降らず日中の気温が高温になった期間が含まれている。そういった日中の温度環境が日中の休息行動に及ぼした影響を分析するとともに、日中の休息行動が夜間の発声行動におよぼす影響について分析を試みる。 ヒトの睡眠時姿勢(寝相)とその遷移の類型化と頻度計測をおこない、あわせて簡易脳波測定を実施して睡眠の深度との関連性について分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に使用した旅費が予定金額を下回ったため、次年度の旅費に使用する。
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