これまで、熱帯域にみられる泥炭湿地林生態系の総合的な理解と人為的攪乱による影響を明らかにするために様々な観点から研究を行ってきた。近年の泥炭湿地林の人為的攪乱のおもな原因は泥炭火災である。そこで、スマトラ島リアウ州において、 火災後に見られる草原植生の種類とその分布を決定する環境要因を明らかにすることを目的として調査を行い、 この草原植生が地下水位とその水質によって規定されており、 泥炭火災跡地の環境指標となりうることを示した。一方、中央カリマンタン州の低地では、その特徴的な地形により泥炭湿地林とともにヒース林の発達が見られる。これまでの代表者らの研究により、これらの森林には共通する種は見られるものの、優占種や樹高が異なっていることが確認されている。そこで今年度は、泥炭湿地林~ヒース林移行帯に広範囲にわたって調査区を設置し、各調査区において土壌環境の違いが樹木群集の種組成や種特性に与える影響を明らかにするための調査を行った。同時に現地の研究者と協力して実生の分布と環境要因、菌根菌との共生に関する研究に着手した。 また、近隣の村落において地域住民を対象とした社会調査を行うことによって、泥炭地の変遷とこれにともなう住民の生業や森林資源の利用方法の変化を明らかにした。さらに、これまでの研究成果をもとに熱帯泥炭湿地林の人為的攪乱とその回復可能性に関する文献研究を行い、これ科学雑誌にて出版した。 今後は、一連の研究から得られた結果を踏まえて、泥炭湿地林の人為的攪乱が森林機能や生態系サービスの変化を通して地域住民に与える影響についてまとめる予定である。
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