2019年度は、代表者の石丸と分担者奥田が調査時期を合わせて、北部・北東部の農村地域から中西部へと移動した新旧の世帯調査を行った。一つは2010年代半ばに北部パラー州からゴイアス州、一つは北東部からブラジリアの衛星都市へと移住した世帯である。ゴイアス州の世帯は居住地内で小規模な自家作物の生産と消費が認められたが、食料の大半は町のスーパーマーケットや市場での購入に頼っていた。ブラジリアでは土地が高騰しており生産に供する余剰の土地が存在せず、食料は購入に頼っていた。大都市であるブラジリアでは土地が高騰し、作物生産可能な土地の所有が困難である。行政による食糧の安全保障として、格安で食事が提供されるコミュニティ食堂と呼ばれる施設が存在していた。 中西部に異動した世帯の経済状況は、北部・北東部における状態から大きく改善し、住居や車、家電製品などの購入能力を備えていた。しかし一方で、経済的に中間層に上昇した彼らが、社会階層として中流層に上昇した訳ではない。都市や都市周辺域への移住により現金収入の機会を得て、経済的状況は改善していたものの、一、二世代では学歴の必要性が伴う正規賃金労働者の社会層への移行は達成されていなかった。 代表者は北部都市周辺農村において、森林に入植した小農世帯の移動歴のヒアリングを行った。入植から14年目経過したのち、定住している初期移入世帯は、約半数であった。彼らの多くは農村部で生まれ、1980年代に都市部へと移動したが、都市労働市場からあぶれたことで、2000年代に都市周辺の農村地帯へと移動していた。これらのことから、ブラジルの貧困層はブラジル社会の経済状況をみて、その時に現金獲得の機会がある都市へと移動をし、経済的に成功した者は都市に定着し、排斥された者は都市周辺の農村部でサブシステンスとインフォーマル労働市場の両方へのアクセスを確保する状況が示唆された。
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