移民の生活世界の構築過程を扱う研究の多くが今日、ネイション、階層、ジェンダーといった複数の要因が交錯して与える影響を考慮する「インターセクショナリティ」という視座をとりいれている。この視座にもとづき、2016年度より科研費を受けた本研究では、日本あるいはフランスに移住したブラジル人女性のケースを調査し、特に、女性のキャリア形成がどのような条件によって可能になるかを明らかにすることを試みた。日本ではブラジル人女性の多くが従事する工場労働から脱してキャリア形成を目指した女性、フランスでは非熟練労働者の移民女性が就くケアワークに従事した後キャリア形成を目指した女性にインタビューを行った。最終年度である2020年度は、フランスの事例についての分析を行い、それを2本の論文の形にまとめた。1本の論文においては、すでに発表済みの日本の事例との比較も行った。日本でブラジル人女性の多くが携わる工場での労働とは異なり、フランスでは介護のサービスの受け手であるフランス人と常に接触するために、ブラジル人女性は語学力を基盤にして他職種へ転職し、その転職先でフランスでは労働者が受ける権利として提供されている職業訓練を活用して専門性をさらに高めたり他職種へ転職する事例も見られた。日本の事例では、「外国人材の活用」が日本政府によって検討されている中で、フランスでは非熟練労働者の移民女性が就く「ケアワーク」が、在日ブラジル人の脱工場労働の手段、すなわちキャリア形成の選択肢の一つになりつつあった。さらに、在日ブラジル人女性は介護の分野でキャリアパスを描くようになっている。
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