本年度は研究の最終年度であり、調査対象の手を広げることよりも、これまでの研究のフォローアップや疑問点の解消を目標に現地調査を行った。パレスチナ・パフォーミングアート・ネットワーク(PPAN)代表のユースフ・ニザール氏にはこれまでの訪問で面会が叶わなかったが今回ようやく実現し、自身の能力を生かしたパフォーミングアートへの支援が「抵抗」でもあるという心意気を伺うとともに、この4年間のPPANの活動の展開を確認することが出来た。またPPANが実施している各団体スタッフへの研修事業や文化イベント実施に向けた活動を目にし、パレスチナの文化団体のネットワーキングのあり方を知ることが出来た。パフォーミングアートに焦点を当てた同ネットワークの発足は本研究テーマ設定のきっかけの一つであったが、パレスチナにおけるパフォーミングアートの層の厚さと可能性について、ここへ来てようやく確信を得ることが出来た。 またアシュタール劇場では、文化と「平和構築」に関する研究者(田浪)の問題意識を共有してもらい、これまで同劇団が手掛けてきた作品のなかから国際的ドナーによるパレスチナへの干渉について諷刺する「ヤースミーンの家」について、作品の意図や背景について詳しく教示して頂く機会を得た。本作は強いられた「平和構築」の枠組みに対するパレスチナ社会の応答の一つであると考えられるが、単なる「抗議」や「拒否」の表現ではなく、演劇空間に居合わせたパレスチナの市民を思考と対話に導くことで、自前の市民社会の創出を試みたものだと言える。アシュタール劇場での参与観察のなかで、スタッフや関係者との断片的な会話や対話を通じて本作への理解を深めることが出来たのは、最終年度の大きな成果であったといえる。
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