本年度は、前年に完了できなかった、いくつかの調査を実施した。 主要なものは、タイ国に出張して、タイ語の仏教雑誌(タマチャクスなど)の調査及びチェンマイにおける信教自由関連の記念碑の調査である。残念ながら戦前刊行されたタイ語の仏教雑誌の数は少なく、かつ当時の閉鎖的なタイ仏教界を反映して、日本人僧侶のタイ訪問に関する具体的記事、評論の類はほとんど見出すことができなかった。 過去3年余の調査をもとに、1888年から1945年までに渡タイした、15名の日本人仏教者(僧侶)のプロファイル、タイにおける活動、上座部仏教観を中心とした、17章からなる研究報告書の執筆を行い、2020年中には刊行予定である。 報告書で取り上げる日本仏教者は、織田(生田)得能、釈宗演、上村観光、概旭乗、遠藤龍眠、渓道元、広田言証、松岡寛慶、釈大真、立花俊道、藤井真水、吉岡智教、浅野研真、平等通昭、山本快龍、上田天瑞、佐々木教悟らである。 1888年から1945年の期間において、渡タイした日本人僧侶の関心は、未知の上座部仏教を探求しようという知的好奇心の時期、1900年の仏骨奉迎の前後における南北仏教の連携模索の時期、南方仏教が戒律重視の仏教であることが認識されるに伴い、日本の仏教は発達仏教、上座部仏教は古いものを無批判に残しているだけの劣った小乗仏教であるという言説が広がった時期、1940年から日本の軍事南進開始とともに進出予定地の仏教界と友好親善を強化する国策の時期、に分けて分析することができる。
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