本研究は、中央・地方関係の変化に着目して中国の対外政策決定の新たな特徴と構造を実証的に明らかにすることを目的としている。沿海部の広東省は、「一帯一路」構想の発表を好機と捉えて中央政府に「海のシルクロード」構想の拠点となるよう海洋経済の発展計画を立案し、中央政府へ計画の採用を働きかけている。沿海部の他の地方政府も発展計画を立案しており、地方政府間で海洋権益の確保をめぐり競争が激しくなっている。これが中国の海洋政策強硬化の要因の一つとなっていることがわかった。 次に、経済発展が遅れがちな内陸部の雲南省の取り組みを検証した。雲南省は国境を接するミャンマーとの関係構築に積極的に取り組んでおり、国境貿易のほか国家間のエネルギー政策決定にも関わっている。ミャンマーから中国に延びる石油・ガスのパイプラインの建設、ミャンマー国内での水力発電開発と中国への送電という大規模プロジェクトに関し、雲南省は計画を発案し中央政府に働きかけを行い、プロジェクトの実施決定以降は政策実行の担い手となっている。 広東省と雲南省の取り組みは、これまでの中央政府が政策を決定し政策の実施を地方に任せるという対外政策過程と異なり、地方政府が一定程度、政策の発案者の役割を果たすようになった実例と言える。先に経済発展した沿海部の地方政府も発展が遅れがちな内陸部の地方政府も、自らの利益の最大化と財政収入の増加を強く望んでおり、積極的に経済政策のプランを立案し中央政府に働きかけている。本研究により、地方政府が外交に介入することで、中国外交が強硬化し周辺国の対中警戒感を高めていることもあれば、一方で国家間の経済関係が進展して地方政府が潤滑油のように働くこともあるという、関与の二面性を明らかにすることができた。
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