研究課題/領域番号 |
16K02027
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
卯田 宗平 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 准教授 (40605838)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鵜飼 / 日本 / 生業技術 / 動物と人間 / ウミウ |
研究実績の概要 |
本年度は、まず日本の鵜飼において利用されている野生ウミウの捕獲から馴化にいたる技術を明らかにした。そのうえで、人間からの介入を受けたウミウの反応にかかわる観察結果を手がかりに鵜飼い漁誕生の初期条件について検討した。 鵜飼い漁は東アジア地域では中国と日本でのみおこなわれている。中国の鵜飼い漁では漁師たちが自宅で繁殖させたカワウが利用されている。一方、日本の鵜飼い漁では茨城県日立市十王町で捕獲された野生のウミウが主に利用されている。各地の鵜匠たちは十王町から送られてきた野生のウミウを人為的な環境において飼い馴らしているのである。 こうしたなか、これまでの鵜飼研究では野生ウミウを飼い馴らす技術を、ウミウの捕獲から飼育、訓練にいたるプロセスのなかで連続的に捉えたものはなかった。 そこで本年度は、野生ウミウの捕獲技術に関して茨城県日立市十王町の事例を、ウミウの飼育と訓練に関して岐阜県長良川鵜飼の事例をまとめた。この結果、野生ウミウを飼い馴らす過程では、①捕獲直後のウミウを特定の姿勢にすることでおとなしくさせる、②ウミウに頻繁に触れることで接近や接触をする人間を恐れない個体をつくる、③新たに捕獲したウミウをすでに飼育しているほかのウミウに馴れさせる、という三つの技術が重要であることを明らかにした。 つぎに、捕獲の現場でおとりにされたウミウ、人間からの介入を受けたウミウの反応を観察し、野生ウミウの行動特性に関して「新たに置かれた環境に対する若い個体の馴れやすさ」という特徴を指摘した。この特徴は人間が野生ウミウを漁の手段として利用できる条件のひとつであると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究活動がおおむね順調に進展している理由は、岐阜市の長良川鵜飼や関市の小瀬鵜飼の鵜匠たちをはじめ、岐阜市役所や関市役所の職員との交渉がうまくゆき、インフォーマントとの問題意識の共有が進み、効率的な現地調査が実施できたことによる。また、茨城県日立市十王町のウ捕り師たちへの調査でも、以前の予備調査のときから調査の交渉をすすめ、ウ捕りの技術と歴史に精通しているインフォーマントに対する聞き取り調査がおこなえたことも理由のひとつである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究では、(1)日本の鵜飼文化を対象に、従来の鵜飼研究で問われることがなかったウミウの人工繁殖の技術、および雛を飼い馴らす技術を明らかにする。そのうえで、(2)中国の鵜飼い漁におけるカワウの繁殖技術との対比から日本の鵜匠によるウミウの繁殖技術の特徴を導きだす。上記の研究目的を達成するため、具体的には以下の2つの計画を立てている。第一は、京都府宇治市の宇治川鵜飼においておこなわれているウミウの人工繁殖に注目し、産卵から孵化、飼育、訓練にかかわる技術の調査を実施し、その成果を中国における鵜飼の事例と比較することで、生業技術の共通性と地域固有性を導きだす。第二は、中国雲南省大理白族自治州でおこなわれている鵜飼を対象に、カワウの繁殖技術や観光産業とのかかわりを日本の事例と対比しながら明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたパソコンが当初計画より安く購入できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額で新たに研究のための物品を購入する予定である。
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