本年度は、研究計画に基づいて、バルカン半島に位置する北マケドニア共和国ドイラン湖の鵜飼い漁を対象とし、旧ユーゴスラヴィア時代におこなわれていた漁の漁撈技術を明らかにした。北マケドニアでは、古老や現役漁師へのフィールド調査と既存文献の整理をおこなった。これまでの鵜飼研究においてドイラン湖の鵜飼技術を取りあげたものはなかった。調査の結果、ドイラン湖の鵜飼い漁は毎年初冬にバルカン半島の北から越冬のために飛来する野生のカワウを捕獲し、冬季の漁で利用したあと、翌春になるとすべて放鳥すること、仕掛けが湖岸に定置型であること、一連の操業において複数の漁師たちが個々の役割を分担することという特徴があることを明らかにした。さらに、本年度はドイラン湖の漁師たちがウ類のドメスティケートしない要因も検討した。その結果、ドイラン湖では毎年初冬に飛来するカワウを確実に捕獲できるため、漁師たちは手間と時間がかかる鳥類の人工繁殖をおこなう必要がなく、毎年初春の漁期終了後にすべてを放つことができることがわかった。こうした成果を「旧ユーゴスラヴィア時代における鵜飼い漁の技術とその存立条件」としてまとめ、国立民族学博物館研究報告に投稿した。くわえて、京都府宇治市の宇治川の鵜飼を対象として、2014年から実施されているウミウの人工繁殖にかかわる4年間の記録をまとめ、鵜匠たち3名との共同で論文を執筆した。そして、共著論文「飼育下のウミウの成長過程と技術の収斂化」を生き物文化誌学会に投稿し、掲載が決定した。
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