研究課題/領域番号 |
16K02028
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中央アジア / カザフスタン / イスラーム / シャマニズム / 伝統医療 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
カザフスタンで2019年までに収集した民族誌データをもとに、身体に関わる観念や行為に着目しながら、社会と宗教の関係を検討した。歴史的に草原地帯を中心に遊牧生活を送っていたカザフ人は、シャマニズム、祖先信仰、テングリ信仰などの諸要素を存続させながらイスラームを受容した人々である。現在、シャマニズムの要素は伝統医療の治療者の行為のなかに見られる。また祖先信仰は、死者(特に祖先)への崇敬というイスラームの規範に抵触しないかたちで、葬送や埋葬などの行為のなかに組み込まれている。 こうした点をふまえて、他者の身体へのケアという観点から葬送や埋葬をめぐる社会的制度について検討し、葬制と墓制の背後にある死生観について論文を執筆した。また、カザフ人の家族生活とイスラームのかかわりについて、結婚形態の変遷をとおして検討し論文にまとめた。人生儀礼とイスラームなどに関する事典項目の執筆も行った。10月にはカザフスタンで開催された国際会議にオンライン参加し、宗教関連の標本資料を含む博物館のカザフ資料コレクションについて口頭発表した。国立民族学博物館のフォーラム型情報ミュージアムの中央・北アジアデータベースの記述にも、研究成果の一部を反映させた。 また、2020年度に開催した国際ワークショップSocial and Religious Dynamics of the Central Eurasian Steppe: Anthropological and Historical Approachesの成果とりまとめに向けて、ディスカッション部分の録音データの文字化など、学術雑誌に今後投稿するための準備作業をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
健康上の理由で2020年11月から2021年6月まで休職し、7月に復職したが、11月中旬に再び病気休暇に入って12月中旬に復職するなど、たびたび研究を中断せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の国際ワークショップSocial and Religious Dynamics of the Central Eurasian Steppe: Anthropological and Historical Approachesの成果のとりまとめを行う。この国際ワークショップでは、ユーラシア草原地帯における社会・宗教動態を歴史的に概観した上で、イスラーム及び仏教とシャマニズムの関係が論じられ、現代のカザフスタンにおける伝統医療と治療者の活動が検討された。今後つめていくべき点として、移動性の高い社会における宗教動態の特徴、ムスリムとしての人生儀礼に反映されている死生観と伝統医療にみられる世界観・身体観の関係、伝統医療と近代的な医療制度の布置の3点が挙げられる。発表原稿を修正し、国外の発表者2名と連絡をとりながら、文化人類学の議論に歴史学の視点を取り入れて序を執筆し投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
健康上の理由で、国際ワークショップの発表原稿の修正と、序論を執筆する作業に遅れが出たため、英文校閲費を今年度は使用しなかった。次年度に成果を学術雑誌に英語で投稿するため、英文校閲費、関連書籍購入費として使用する予定である。
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