研究課題/領域番号 |
16K02029
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
坂口 安紀 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターラテンアメリカ研究グループ, 研究グループ長 (80450477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 権威主義 / 民主主義 / 地域研究 / 南米 |
研究実績の概要 |
ベネズエラのチャベス政権(1999年誕生)、ボリビアのモラレス政権(2006年誕生)、エクアドルのコレア政権(2007年誕生)の3政権は、ある程度競争的な選挙を定期的に実施しながらも、国家権力間の独立性とチェック・アンド・バランスの不在や機能不全、反政府派政治リーダーや市民、メディアに対する抑圧といった民主主義の原則や価値を尊重しない政権運営を行っている。本研究はこのような状況を競争的権威主義論の枠組みで比較分析し、それがいずれも10年を超える長期政権化している背景について明らかにしようとするものである。 1年目にあたる2016年度は、メンバー間で分析枠組みを共有し発展させるために、先行研究の紹介・サーベイとそれに関する議論を行った。研究会は3回実施し、合計9本の論文をとりあげた。これら3政権を比較分析する先行研究では、天然資源収入(石油および天然ガス)があることや、大統領のカリスマ性に依拠したポピュリスト体制論が注目されてきた。それらに加えて、比較政治学の文献からは、権威主義体制における議会の維持や選挙の実施が、民主体制下のそれとは異なる機能を持ちうるという新たな視点を提示する研究をとりあげ議論した。それらでは、議会や選挙には、権威主義体制の継続に寄与するような、民主主義体制下とは異なる作用があることが示されており、これらは本研究であつかう上記3政権の長期化の説明要因として、2年目以降の研究において重要な論点となる。 一方3カ国それぞれに関するケーススタディからは、これら3政権の間の多様性(市民社会に基盤をもつか否か、反政府勢力の強さなど)も浮き彫りになった。3政権のなかではベネズエラにおいて権威主義色がより強い一方、ボリビアについては競争的権威主義という概念が適切かという疑問も提示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直接経費予算が申請額より3割削減されたこと、およびメンバーの本務との兼ね合いで現地調査の時期を変更したことなどで、1年目に予定していた現地調査は行わずに2年目に実施することとし、先行研究のサーベイと議論に集中した。3カ国それぞれの地域研究者、比較政治学を専門とするメンバーが文献を持ち寄り議論することで、視野が広がった。また、直接経費予算が削減されたことを受けて、2~3年めに実施する現地調査の日数を確保するため、当初予定していた書籍購入も節約することにした。 当初の予定通りといかなかったこととして、海外の研究協力者として予定していたベネズエラの政治学者エクトル・ブリセニョ氏が来日しなくなったため、研究会参加ができなかったことがある。これは、アジア経済研究所の長期客員研究員として来日を予定していたものが実現しなかったためである。しかしブリセニョ氏とはインターネットを通じて情報・意見交換をしている。また2017年度は二人の委員がベネズエラに現地調査を実施予定であるため、現地でブリセニョ氏を交えて議論を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2017年度は、引き続き文献サーベイ・議論の研究会を実施する。2017年度は4回の研究会を予定しており、毎回2~3本の文献議論あるいは中間報告を行う。第1回は6月2日開催予定で、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル3カ国の地域研究者がそれぞれの国の状況を競争的権威主義の概念にひきつけて、現時点で整理した情報を報告予定である。また2017年はベネズエラ(2人)とボリビア(1人)において現地調査を実施する。ただし現在ベネズエラでは政治情勢が緊迫し治安も悪化していることから、現地情勢を見きわめ、現地調査の危険性が高いと判断した場合には今年度の実施を見送らざるを得ない可能性もあり、慎重に進める。 2017年度は、中間成果あるいはサブプロダクトを、『ラテンアメリカ・レポート』その他で発表することを予定している。 2018年度には残るエクアドルの現地調査を実施する。また最終年度である2018年には、成果のとりまとめを行い、ラテンアメリカ学会あるいはラテン・アメリカ政経学会、そして予算その他の状況により可能であればLASA(Latin American Studies Association)などの国際学会で成果を発表するとともに、各委員がそれぞれ学術ジャーナルや『ラテンアメリカ・レポート』などへの掲載に向けて最終成果を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算額が当初申請額より3割縮小されたため、現地調査予算を確保するため当初予定していた図書購入は当該予算では行わないことにしたため。また2016年度に実施予定であった現地調査は、本務業務の関係から2016年度には行わず、2017年度と2018年度に実施することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
委員全員の現地調査と国内外出張の予算を優先的に確保する。2017年度はベネズエラに2人、ボリビアに1人の委員が現地調査を実施予定、2018年度にはエクアドルに1人の委員が現地調査と、複数(または全)委員の国内外の学会出張を予定。図書購入費については、現地調査や学会出張を優先したうえで、出来る範囲で検討する。
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