研究課題/領域番号 |
16K02029
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
坂口 安紀 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターラテンアメリカ研究グループ, 研究グループ長 (80450477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 権威主義 / 民主主義 / 地域研究 / 南米 |
研究実績の概要 |
本研究は、ベネズエラのチャベス政権、ボリビアのモラレス政権、エクアドルのコレア政権のいずれもが10年を超えて長期化した背景要因について、競争的権威主義の概念を軸に比較分析することを目的としている。2年目にあたる2017年度は2回研究会を実施し、先行研究2本のサーベイおよび各国の事例報告(4報告)あわせて6つの報告をもとに議論を進めた。 先行研究レビューでは、権威主義体制下における、民主体制下とは異なる選挙の役割・機能に関する論文について前年度より議論してきたのに続き、選挙の実施が権威主義体制の継続に寄与するのか否かに関する実証分析論文について議論した。とりあげたKnutsenらの論文によると、短期的には選挙は非民主体制に対して政権交代のリスクをもたらすが、長期的には政権を維持することに寄与するとの結論が示されている。 もう1つの先行研究に関する議論では、反政府派の戦略が非民主的政権の維持を規定する要因のひとつであるとするGamboaの論文が紹介された。反政府派が議会内での議論など民主的制度内での行動に終始した場合に比べて、街頭での抗議行動やボイコットなど非制度的活動をとった場合、政府にとって反政府派を抑圧するコストが低くなり、それが非民主的政権が継続することにつながったという議論である。 これらいずれも、本研究会が対象とする南米3カ国の事例に多くの示唆を与える。「民主主義下とは異なる、権威主義体制下の選挙の役割・機能」については、上記先行研究が示す役割に加えて、ベネズエラの2017年度の制憲議会選挙およびその後の2つの地方選挙の事例から、選挙への参加とボイコットの間で「反政府派勢力を分断し弱体化させる機能」をもち、その結果権威主義体制の継続に寄与するという議論を、本研究会から新たに提示できると考える。この議論については、2018年度6月の日本ラテンアメリカ学会でパネル報告する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、ベネズエラ(2人)、エクアドル(1人)、ボリビア(1人)への現地調査による情報収集と現地研究者を重要なインプットとして計画された。2017年度は、ボリビアに1人、ベネズエラに2人が現地調査を予定していたところ、ベネズエラについては政情の急速な不安定化とそれにともなう治安の悪化により出張申請が代表者の所属機関より却下され実現できなかった。2017年7月末に透明性が低い制憲議会選挙が実施され、反政府派がそれをボイコットしたことで政府と反政府派の衝突が激化し、反政府派市民による大規模な抗議行動が続いたためである。ベネズエラの状況は2018年度は2017年度以上に厳しくなっており、2017年に許可されなかった出張が現状では2018年度中に許可される可能性は残念ながら低いと思われる。なおボリビアについては2017年度に予定通り現地調査を実施ずみであり、エクアドルについては2018年度中に実施予定である。 現地調査以外には2016年度には3回、2017年度には2回の研究会を実施し、合計11本の先行研究論文のレビューと議論、およびそれぞれの担当国に関する事例発表を実施した。 また、研究代表者の中間報告のひとつとして、『ラテンアメリカ・レポート』Vol.34 No.2(2018年1月発行)に、「ベネズエラにおける制憲議会の成立と民主主義の脆弱化」を発表した。 また、2018年6月2-3日に開催される日本ラテンアメリカ学会で研究会全体としてパネル発表を企画しており、4人の研究者全員がそれぞれ報告論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
ベネズエラ現地調査の遅れから、本研究は最終年度にあたる2018年度末に、1年延長を申請することを現時点で予定している。 ベネズエラの2018年度は2017年度以上に政情・治安・経済状況ともに悪化しており、出張申請を出しても承認されない可能性がきわめて高い。一方、大統領選挙や対外債務のデフォルトなどがきっかけとなり政権交代につながる可能性もあり、それが実現すると短期的には混乱してもしばらくすると状況が落ち着く可能性もある。そのためベネズエラ出張については、本研究を1年延長して様子見をし、4年目(2019年度)の実施可能性を探る。もし2019年度にもベネズエラへの現地調査が所属機関により認められないようであれば、ベネズエラ人の出国・亡命が大規模に起きているコロンビアや米国諸都市など周辺地域で情報収集を行う、あるいはベネズエラから有力な研究者を日本に招聘する、などの代替策を検討する。 ボリビアへの現地調査は2017年度に実施ずみ、エクアドルについては2018年度中に実施予定である。 現地調査以外には、2018年度も年に数回研究会を実施し、先行文献のレビューおよび各担当国の事例に関する議論を進める。2018年6月2~3日には、日本ラテンアメリカ学会で本研究のメンバー全員でパネル報告を準備し、各自が報告論文を執筆中である。今までの議論を同学会で中間報告として発表し、そこでのフィードバックを今後の研究に反映させていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ベネズエラに2人が計画していた現地調査が、政治情勢および治安の悪化により、所属機関により認められず実施できなかったため。2018年度も政治・治安情勢ともに急速な改善は見込めず、出張が許可される可能性は低いため、本計画を最終年度である2018年度末に1年延長し、2019年度に2人とも現地調査を実施することを考えている。ベネズエラは近年政治対立の悪化、国際社会からの孤立、対外債務のデフォルトの危機に直面しており、1年延長することにより政権交代などの事態の進展があることを見込む。2019年度になっても状況が変わらず出張許可がおりない場合は、ベネズエラ人が数多く脱出している米国諸都市やコロンビア・ボゴタなどの近隣諸国での代替調査を行うか、またはベネズエラ人から著名な研究者を招へいすることを検討する。そのため、延長する4年目までその分の予算を確保しておく。
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