研究課題/領域番号 |
16K02029
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
坂口 安紀 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター, 主任調査研究員 (80450477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 権威主義 / 民主主義 / 地域研究 / 南米 |
研究実績の概要 |
ベネズエラ、ボリビア、エクアドルの南米3カ国において、競争性が残る選挙を実施しながらも権威主義的政治運営を行う「競争的権威主義体制」がなぜ長期化するのかという点について議論を進めてきた。エクアドルは政権交代により競争的権威主義体制に終止符が打たれたが、一方ベネズエラでは、2017年度以降は選挙の競争性が実質的に消滅し、競争的権威主義体制から「競争的」という形容が外れ、権威主義体制へと移行した。 2018年度は4回の研究会を実施、6月には学会報告、11月にはベネズエラ人政治学者エクトル・ブリセニョ氏を招聘して集中的に議論するとともに、東京と京都で成果報告講演会・研究会を行った。2018年6月の日本ラテンアメリカ学会大会では「競争的権威主義体制の長期化」と題するパネルを企画し、代表者と研究協力者の合計4人がそれぞれ発表し、報告ペーパーを執筆した。坂口(代表者)は「競争的権威主義体制における選挙の機能:ベネズエラの事例からの一考察」というテーマで、ベネズエラの事例から競争的権威主義体制において選挙が政権継続にとって有効なツールとなってきたことを示した。出岡(研究協力者)は世論調査をもとにベネズエラの選挙における「恐怖」のインパクトについて計量的に分析した。岡田(研究協力者)は、中央政府を競争的権威主義政権が支配する一方で、地方政党が中央を視野に入れながら勢力を拡大するための戦略について分析した。新木(研究協力者)は、エクアドルのコレア政権が競争的権威主義と定義できるか否か、またその体制が終わりを迎えた背景を考察した。 11月にはベネズエラ人政治学者ブリセニョ氏を招聘して集中的に研究会を開催するとともに、東京では講演会を実施し、ブリセニョ氏と坂口がともに本研究会の成果について一般向けに講演した。京都では同志社大学で関西のラテンアメリカ研究者に対して成果報告研究会を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、ベネズエラ、ボリビア、エクアドルという南米の競争的権威主義政権の事例3カ国について、現地調査をもとに研究を進めることを計画していた。ボリビアについてはすでに現地調査を終了ずみで、それをもとに学会発表や発表論文も提出された。エクアドルについては大学業務の関係で実施が遅れたが、2019年度夏に実施予定である。 一方で、本研究で最も重要な対象国であるベネズエラについては研究代表者と協力者2人が現地調査を実施する予定であったが、同国の政治状況が悪化し、外務省の危険アラートが引き上げられたため、所属機関の安全審査で出張許可が降りなかった。一方で厳しい経済状況や政権支持率の低下などから政権交代の可能性があるとみていたため、2017年以降も出張予算をほかに転用せずに取り置き、政権交代後の現地調査実施を計画していた。しかしマドゥロ政権は大方の予想を裏切り政権を掌握し続けている。政治治安情勢は悪化を続け、外務省のアラートはさらに引き上げられたため、ベネズエラへの現地調査の実施は不可能となった。 その間、年3~4回ずつ研究会を実施し、各自の報告と文献の読み込みや議論を重ねてきた。そこでは、権威主義体制下における選挙や議会の機能、反政府派勢力の政治戦略などが議論された。2018年6月には代表者および研究協力者3人の全員で、日本ラテンアメリカ学会でパネルを企画し、全員が研究報告を行い、中間報告として論文を同学会に提出した。 またベネズエラ現地調査ができないかわりに、2018年度にはベネズエラ人政治学者エクトル・ブリセニョ氏を招聘し、集中的に研究会を実施して議論を重ねた。ブリセニョ氏からは、政権による軍のコントロールおよびそれを支えるキューバの存在、厳しい経済社会状況においてむしろそのなかで大衆が政府による食料配給(CLAP)に依存する状況を作っていることなど、新たな論点が提示された。
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今後の研究の推進方策 |
ベネズエラの政権交代や状況改善を2018年度末まで待ったが、状況が悪化を続けるなかで2019年度に入った。そのため研究代表者はベネズエラへの現地調査をあきらめ、代替策として、政治経済的事情から国を脱出したベネズエラ人が多く集住する米国マイアミのDoral市でインタビュー調査を実施する。同市はDoralzuela(DoralとVenezuelaを合わせた造語)と言われるほどベネズエラ人が多く、また国外から反政府政治活動をする政治組織も存在する。亡命軍人や政治家へのインタビューを準備している。また同時期にボストンでLASA(ラテンアメリカ学会、2019年5月24-27日)が開催され、ベネズエラ人研究者やベネズエラを事例として取り上げる比較政治学者らが集まるため、彼らの報告を聞くとともに個別に意見交換を実施する。 また現地調査のかわりに現地の情報や議論を取り入れるために、現地の世論調査会社への委託調査、およびベネズエラ人研究者の日本への招聘を計画している。委託調査をもとに秋にベネズエラ人研究者らとともに集中的に研究会を開催して議論を深め、それらをもとに、2018年度に報告したラテンアメリカ学会での報告論文の内容をさらに深めて、最終成果の執筆にかかる。2019年11月末に開催されるラテンアメリカ政経学会の場でも発表して、フィードバックを最終原稿に反映させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ベネズエラの政治治安情勢が緊迫しており、2人の現地調査が実効できなかったため。政治情勢はいつ政権交代してもおかしくない状況で、それが実現すれば状況が変わり現地調査実施の可能性があると考え、予算をほかに転用することなく様子を見ていた。研究期間を延長して2019年度が最後の年となるが、いまだ状況は変わらずさらに悪化し、外務省の安全情報アラートも3に引き上げられ(退避勧告)たため、ベネズエラの現地調査をあきらめた。そのかわりに、政治経済的理由から逃れてきたベネズエラ人が集住し、反政府派政治活動をする組織も存在する米国マイアミのドラル地区において調査を実施する。また、ボストンでラテンアメリカ学会が実施されるため、そこに参加するベネズエラ人政治学者らとの意見交換、ベネズエラの世論調査会社への委託調査、ベネズエラ人研究者の日本への招聘と日本における集中的な研究会開催などで、現地調査ができない分を補完する予定である。
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