研究課題/領域番号 |
16K02031
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
金井 郁 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70511442)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歩合給 / 生活 / ジェンダー / 顧客 / 3極関係 |
研究実績の概要 |
日本の生命保険業にみられるような「自営的雇用」とも呼びうる雇用関係の特質の一つとして歩合給が挙げられる。そこで、生命保険営業職の歩合給に着目し、その背後にある生活の論理を賃金管理とそれに対する労働者の主体的な取組みから検討した。生活の論理には、大きく生計費の観点と労働時間の柔軟性の観点があることが明らかとなった。歩合給にある労働者の「振り分け」機能(ラジアー、1998)により相対的に成績の低い者が退職に追い込まれ、結果的に勤続年数が長い者の平均賃金が上がる。勤続年数が長い者は生命保険営業職の歩合給システムに合った人のみということになる。このシステムに合うかどうかは、世帯において主な稼ぎ手なのかどうかや機会賃金との関係によって変わる。女性の生命保険営業職の歩合給は、生計費と労働時間双方の観点で労働者の生活水準を同時に満たすことは少ないが、賃金上昇可能性とケアのための労働時間の柔軟性といったそれぞれの側面を強調することで「満たせる可能性がある仕事」として日本の社会に長く位置づけられてきたことを明らかにした(「歩合給における生活の検討とジェンダー-生命保険営業職を事例に」)。また、国際学会報告Gender and Power Relations in Japanese Life Insurance Companies:From the Perspective of teractive Service Work Triangleにおいて、「管理者-労働者(営業職員)-顧客」のジェンダーによる違いで3極関係がいかに変化しうるのか実証的・理論的検討を行った。Gender Hierarchy modelとFemale bond modelとHomo-socialmodelの3つのモデルがあり、モデルによって労働強度・負荷・ストレスの程度の違いが生まれるという試論を展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、顧客の存在を分析対象に含めた上でサービス産業における雇用の非典型化とジェンダー化の実相を明らかにし、製造業を中心に蓄積されてきた雇用関係、雇用システムの理論枠組みを発展・深化させることであった。2017年度に学会報告した非典型化の一形態としての歩合給と労働者の主体的取り組みについて2018年度は論文として公刊し計画通りに進展した。さらに「管理者-労働者(営業職員)-顧客」のジェンダーによる違いで3極関係がいかに変容し、雇用関係にいかにインパクトを持っているのかについても、国際学会報告を行い、計画通りに進んだ。生命保険営業職へのインタビュー、スーパーマーケット産業における各階層の労働者へのインタビューは順調に蓄積されており、顧客ケアの理論化についても検討を行っており、2019年度に学会報告、論文執筆予定である。2017年度に計画を立てたサービス産業における「生産性」議論と非正規雇用についての論文を執筆したが(2019年度公刊)、生産性を本研究の非典型化といかに結びつけるのか理論的検討が未着手である。 これらの研究から、最終年度である2019年度に製造業を中心に蓄積されてきた雇用関係、雇用システムの理論枠組みをサービス産業の検討を踏まえてさせていく。
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今後の研究の推進方策 |
生命保険営業職は「顧客を労働対象とし、顧客との相互行為を通じて顧客に奉仕する労働」として接客サービス労働の特性で捉えられるといえる。サービス労働においては、生産物であるサービスを、それらを提供する労働者の人格やパーソナリティやモノの見方、考え方、感じ方と切り離すことが出来ないため、企業は提供するサービスにふさわしいジェンダー、人種、年齢、セクシュアリティの特徴をもつ労働者を選抜し雇用し訓練する(鈴木、2012)といわれる。そこで日本における伝統的生命保険会社と外資系や新設された生命保険会社において、営業戦略を展開する上で、企業が労働者をいかにジェンダー化し、採用・教育訓練しているのかを検討する。さらに生命保険営業は単に生命保険の販売をするのではなく、総合的な「顧客ケア」をすることが、仕事の核心であることを示し、顧客ケアの理論化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会報告の予定をしていたが、国際学会が国内で開催されたため、出張費が節約できたため。
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