本研究は、サービス産業における雇用の非典型化とジェンダー化の実相を明らかにし、製造業を中心に蓄積されてきた雇用関係、雇用システムの理論枠組みを発展・深化させる。特に顧客との人格的接触を通じてしかサービスを顧客に引き渡すことが出来ないサービス労働に着目し、労使の枠組みに「顧客」というアクターを加え、管理者、労働者、顧客の3極関係を検討することが目的であった。事例として特に生命保険産業の営業職を取り上げ、非典型的な雇用がどのように成立し、ジェンダーと結びついていかに自営的雇用が機能し労使関係に影響しているのかを検討した。 その結果、第1に、人格的接触を通じてしかサービスを顧客に引き渡すことが出来ないサービス労働では、ジェンダーが戦略的にマネジメントに用いられていた。顧客を引き付けるための営業戦略に、労働者のジェンダーが用いられ、そうした労働者を採用・育成する際も労働市場のジェンダーダイナミックスが積極的に利用されている。第2に、1点目ともかかわって、管理者―労働者―顧客の3極関係を形作る上でも、ジェンダーが大いに利用されていた。第3に、自営的雇用のあり様は、生命保険営業職については監督官庁であった大蔵省や労働省の行政指導、経営者団体、労働組合といったアクター間の交渉や、GHQによる労働政策、マネジメント手法の変更といったことによって形成され、その主体が男性から女性に変更していた。第4に、こうした自営的雇用の性格の一要素である生命保険営業職の歩合給は、賃金上昇可能性とケアのための労働時間の柔軟性といったそれぞれの側面を強調することで、同時に満たすことは難しいものの、「満たせる可能性がある仕事」として日本の社会に長く位置づけられてきた。 サービス労働は労働の質と量の柔軟性を求められ、ますます雇用の非典型化やジェンダー化が進むと考えられるが、アクターの働きかけによって可変的である。
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