研究課題/領域番号 |
16K02033
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
牧野 雅子 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70638816)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 痴漢 / 性暴力 / 性犯罪 / 迷惑防止条例 / 犯罪統計 / 女性専用車両 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
性暴力の中でも、電車の中で体を触る行為である「痴漢」に注目して、適用法令や統計、メディアの中で痴漢はどのように扱われてきたのかを中心に引き続き調査を行い、その結果をまとめた。 公的機関における痴漢被害の把握件数を知るべく、犯罪統計として公表されているものに加え、警察への相談件数や事案取扱件数の情報開示請求を行ったところ、全国で把握された痴漢被害件数やその変動を知ることのできる統計は存在しないことがわかった。性暴力事件は、被害者が羞恥心から被害申告を躊躇い、暗数が多い事件であると言われることが多いが、痴漢事件は被害相談・届出されたものですら、公的な統計としてまとめられておらず、被害の実状が数値に反映されていない。痴漢についての統計の不在は、痴漢被害に対する公的機関の軽視を表しているといえる。 痴漢事件の多くは、迷惑防止条例違反として処理されているが、都道府県警察が立案したこの条例は警察のジェンダーバイアスに基づいており、それによって痴漢行為が禁止・捜査されていることの問題がある。 痴漢をめぐる戦後の雑誌や新聞記事の言説分析からは、痴漢は長らく性被害としては見なされておらず、娯楽の対象として消費されてきたことが分かった。2000年頃から痴漢冤罪被害が問題化され、痴漢冤罪が痴漢被害と同列に語られるようになると、女性が被害を語ることが、男性への攻撃として受け止められるようになった。痴漢被害を防止するために導入された女性専用車両も、男性の被る不利益という面から取り上げられることが多く、性暴力防止の気運醸成に繋がったとはいいがたい。 こうした研究成果は、今後の痴漢をはじめとする性暴力防止対策に寄与するものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月に予定していた、北海道及び東北地方における性犯罪被害者の保護対策についての文献調査が、新型コロナウイルス感染防止対策により公立図書館が休館したため計画通りに行えていない。本調査は、状況が落ち着き次第、実施する予定である。この他は、おおむね計画通りに進行しており、これまでの調査に基づいて学会で報告を行ったほか、痴漢問題について単著『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』にまとめて出版した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたる2020年度は、2019年度未実施の調査を行った後、性犯罪被害者の保護対策についての調査結果をまとめる予定である。捜査過程への女性の関与の必要性が指摘されて久しいが、女性警察官の参入によって、性犯罪捜査がどのように変わり、警察組織のジェンダー観がどのように変わったのかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に実施予定であった資料調査が、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、公文書館や公立図書館の休館により、延期せざるをえなかった。状況が落ち着き次第、調査を再開する予定である。
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